Catants

□九
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「そう。ラキは覚えが早いな」

「…ありがとう」


アーサーは自分の自由時間をほとんど費やして、ラキと英語の勉強をしていた。

それが三週間たったころ。

ラキは身の回りの物の名前と、必要最低限の会話ぐらいは出来るようになっていた。

そして、それが煮詰まる頃でもあった。


「医務室の中じゃこれまでが限界だな。」

「?」


ラキは首を傾げた。

ラキとつきあう上で、アーサーはだんだんわかってきた。

ラキは基本無表情無反応。

始めは言葉がわからないせいかと思った。

でも、決してそれだけじゃない。

反応がうすい。

取り乱さないというか。


以前、アーサーがラキに英語を教えていたときのこと。


『オーケー、じゃあ次にいこう』


アーサーが荷物をあさり、下を向いた、

その瞬間。


ガラガラガラガラ…!!!
ガシャン!!



『うわっ!!』

『………』


癒療器具がもろもろ落ちるような音がした。

アーサーは慌ててカーテンをひき、ラキを隠す部屋から出た。


『大丈夫ですかマダム!』

『ああ、アーサー驚かせてごめんなさい。大丈夫よ』


癒療器具を拾うのを手伝って、ラキの部屋へ入った。

ラキは大きな音に対する反応は何もないようだった。

動揺も、ない。


アーサーが『勉強始めよう』と切り出した時も、なにも言わなかった。




さらには、医務室という部屋の都合上、重体の患者が慌しく入ってくるときもあった。

ラキは外の景色を見ることは出来ないが、異臭がする場合もある。

失敗した魔法薬を頭からかぶって、酷い悲鳴をあげて入ってきた子もいた。

耳を塞ぎたくなるような悲鳴も。


アーサーは顔をしかめ、正直気分が悪くなるときも多数あった。

その時でも、ラキは顔色一つ変えない。


そんな時、ふと、病気の子を相手にしている気がした。

心を失った子のような…――




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