☆CP小説Garden☆

□宵の桜見
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「松本…?」

ようやく仕事が終わり、隊舎を後にしようとした時に感じた、慣れ親しんだ霊圧。

「あ、たいちょ〜!」

それを何故だか屋根の上から感じて訝しげに覗いてみれば、数時間前にとっくに帰ったはずのサボり魔副官が鎮座していた。

「何してんだ?こんな夜中に、一人で…。」

今はもう、日付が変わろうかという時間。

月明かりだけしかないこんな真夜中に、一人で一体何をしているんだ?と彼女に近付けば。

「何…って、花見ですよ、花見!」

「花見!?」

予想だにしなかった言葉を返され、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

つーか、花見って昼間の明るい時間にやるもんじゃねぇのか?

「そうですよぅ!どっかの鬼隊長が、『花見なんかやってられっか!仕事しろ、仕事!!』って、昼間にお花見させてくれないから、こうして自主的に月見酒しながらお花見してるんです♪」

“ね?一石二鳥でしょ?”なんて、酒で上気して機嫌良さ気に笑っている己の副官。

いや、確かに俺は花見却下は言い渡したが…。

「仕方ねぇだろ?そもそも、その花見をダメだっつったのも、元々は、お前が年度末までに終わらせるべきだった仕事を溜め込んでいたせいで、新年度明けて3日間が年度末の後始末、その後に新年度やるべき仕事に取り掛かったもんだから、十番隊だけが初っ端から仕事の締め切り破りをしているからだ!!」

俺だって、日々頑張っている隊員たちの為に、息抜きの意味も込めて、花見の一つや二つ、させてやりたかった。

松本が、仕事を溜め込んでさえいなけりゃの話だったが。

既に十番隊だけ幾つもの締め切り破りをしているなかでは。

呑気に花見なんて出来るわけがなかった。

「Σヴ…!そ、それ…は…ιιι」

思い当たる節のある松本は、グッと言葉に詰まらせた。

「それは…その……ごめんなさい…。」

そして彼女には珍しく、素直に、しおらしく謝ってきた。

「まあ…過ぎちまったもんは仕方ないがな…。」

そんな、普段と違う彼女だから、俺もつい毒気を抜かれて。

まあ、元々そんなに怒鳴りこむつもりもなかったので、それ以上の追求はしないつもりだったのだが。

「でも、花見は別に、私がやりたいから、ってだけじゃなかったんですよ!?」

「?」

松本がやりたいから、だけじゃ…ない?

「どういう事だ?」

コイツは、酒飲んだり騒いだりしたいから、“花見をしたい”って言い出したんじゃなかったのか?

「もちろん、皆と騒いでパーッとやりたかったし…お酒も飲みたかったですけど…。」

…やっぱそうじゃねぇか…。

「本当は…隊長のためにも、やりたかったんですよ…お花見。」

「!?」

俺の…為に……?

「ほら、私いっつも迷惑かけてるじゃないですか?隊長に。」

……自覚してんなら、花見催す前にそこを改善してくれ。

その方がよっぽど嬉しいんだが。

「いっつもいっつも遅くまで残業してて、隊長疲れてるじゃないですか?」

……知ってるなら、隊長(おれ)の補佐は二の次で良いから、せめて自分の仕事だけは期限までに片付けてくれ…。

「だから、そんな隊長に…花でも見て、心を和ませてあげたかったんですよ。」

「………。」

「ほら、植物って見てるだけで癒されるじゃないですか?だから、隊長にも桜でも見てリラックスしてもらいたいな〜…な〜んて!」

ぺロ、と舌を出しながら、また酒を煽り始めた松本。

俺はと言えば、松本から言われた意外な言葉に、しばし固まっていた。

……いや、考えてみれば、それほど意外ではないのかもしれない。

普段は“本当にコイツは副隊長なのか?”と思うほどに不真面目で隊長(おれ)を疲れさせるだけの奴だが。

茶を入れるタイミングや、強引な休憩時間の確保。

少し熱っぽかったり体調を崩した時にも、わざわざ粥を作ったり、薬を用意してくれた事もあった。

それらは皆、無理する傾向のある俺を止める為のもの。

今回の花見もきっと、知らず知らずに気を張り詰めて無理しそうな俺を、少しでも止めようとした思いもあったのだろう…。

そういう気配りは、彼女は誰よりも秀でていたから。

「……そうか…。」

ゆっくりと、視線を松本からズラし、彼女の見ていた花々に移す。

夜桜が一際輝いて見える、幻想的な雰囲気。

「確かに、良いもんだな…花見も。」

疲れはピークに達していたが…それでも、普段目にしないような美しい光景に、心が軽くなる。

「でしょ?夜の桜は格別なんですよ〜!でも、やっぱり明るい陽の下でも桜、見たかったな〜!」

尚もねだるような口調の松本。

普段なら、即却下を言い渡しているところだろうが…。

「……明日までに期限切れの仕事がきっちり片付いたら、良いんじゃねぇか?」

「―!ホントですか!?」

「ああ…。」

雰囲気に飲まれての言葉だって、構わない。

桜は確かに、俺の疲れを少しでも取り除いてくれたから。

「やったvVよーし、明日は俄然、はりきっちゃいますからね!」

「普段からそれなら、俺も何も文句無えんだけどな…。」

「う゛〜ι」

それに何より。

「もう!隊長は“仕事、仕事”って、仕事ばっかり!」

「どっかの副官が仕事しねぇからな…。」

「ッ…(泣)」

「(苦笑)明日頑張ったら、ちゃんと付き合ってやるよ、花見。昼間に。」

「―!…絶対、約束ですよ!?ちゃんと頑張りますから、必ず、一緒に花見して下さいね!?」

「ああ…。」

「ふふv隊長とお花見、楽しみだな〜!」

この、輝かしい笑顔が。

「まだ決まってねぇだろ?」

「いーえ!アタシが本気出したら、凄いんですから!!絶対、お花見は確実です!!」

俺の一番の特効薬だから。

「クス…期待してる。」

そう、期待している。

お前は必ず、明日には仕事を終わらせて。

「クス…はぁ〜い!」

俺を、花見に連れ回すのだろう、と。
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