short

□人形の家
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 こんなに悩む必要なんてないのだ、と我愛羅は何度めかのため息をついた。風影室の窓から舞い込んでくる今日の風はうららかに、彼の頬をなでる。日差しは相変わらずじりじりと照るが、その太陽の下で犬の声と子供たちの笑い声が混じり合う。際立った喧騒もない、穏やかな砂の昼さがり。しかし、彼の心は妙に晴れなかった。
 大した問題ではないのだ、と彼は思う。早急に答えを用意しなくてはならない議題でもないし、そもそも回答を求めている者もいない。つきつめて言えば、問いかけすら存在していない。ほんの些細なこと、始まりは相談役のつぶやきだった。
 午前の会議が終わり、部屋から出た時、廊下の先でテマリとカンクロウが横切ってゆくのが見えた。二人は今日、休暇をとって里から外出する予定だ。その一瞬の光景に目をとめていると、同じように彼らの姿を見た相談役が、
「テマリ様も美しくなられましたね」
と言う。我愛羅がうなずいてみせると、彼は一段と重々しくうなずいた。
「忍としての才はもちろんだが、教養もあり、たしなみも一通り心得ている。あれなら、どこへ行っても恥ずかしくないでしょう」
彼は我愛羅を見てさらに何か言おうとしたが、しかし急に思いとどまったようだった。そして開きかけた口はそのままに
「では、失礼いたします」
と去って行った。
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