C+W
□螺旋キャスト
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「いいよ」
「え…?」
「俺でいいなら、よろしくね」
「えっあの!」
「本当は今日一緒に帰りたいけど、バイトおしてるから明日ね」
「はい…明日…」
勿体無い素敵な笑顔を私に向け、彼は爽やかに走り去って行った。
残された私の心には彼に対する罪悪感よりも、今何が起こったかわからない状態だった。
*
私の学校での立ち位置はいじられ役である。
取り敢えずネタにされてその場を盛り上げるような…言っておくがいじめにあっているわけではない。
クラスでグループが作られ、そのグループの雰囲気作りに常日頃頑張っているのである。
グループの中に1人はいじられ役がいなくては、場が盛り上がらないし面白くない。
そして今日も私はいじられるのである。
「まっ負けた…」
「ホントにあんたはトランプ弱いね」
「ある意味凄いね!」
「じゃあ罰ゲーム決めるよぉー」
私達は昼休みの時間を使い毎回トランプなどのゲームをしている。
ゲームを始める前に1人一枚罰ゲームの内容を小さな紙に書いて折りたたむ。
ゲームが終われば其処からどれか一つ取って、罰ゲームを決める。
罰ゲームの内容は大したことはない。
例えば堅物に定評がある先生に挨拶がてらタッチしたり、購買で人気なパンを授業が終わると同時に誰よりも早く買いに行ったり…そんな大したことはないのだ、本当に。
「あんま体力使うのはやだなぁ」
「パン買いに行ったのは凄かったね!」
「大丈夫、今回は楽なのにしたから」
むしろ罰ゲームは私の為にあるようなもので、毎回皆は私に向けての内容を書いている。
「じゃあこれ!…おぉ!」
「何か嫌な予感…」
「何々!?早く言ってよ」
「じゃじゃーん!」
バッと小さな紙をこちらに向ける。
その内容はとてもシンプルで尚且つかゆくなりそうだった。
「拓海君に告白でーす」
「……へ?」
拓海君に告白。
それが書いてあったのだ。
告白、告白…告、白?
「拓海、君て…」
拓海と言えばあの人しかいない。
藤代拓海。
この学校で彼を知らない人なんて殆んどいないと思う。
なんたってそりゃあ…
「拓海君は拓海君!ちょーかっこいい拓海君しかないじゃん!」
「因みに書いたの私」
「ちょっ、楽じゃない、全然楽じゃないよ!」
彼はとにかくカッコイイ。
何回か見掛けたことがあり、綺麗な顔をしていたのを覚えている。
王子様キャラだな、うん。
当然彼はそりゃあもうモテるわけで…。
彼に向けられた黄色い声をよく聞く。
いや女子だけではなく、男子にも人気だ。
普通モテる男は妬まれそうだが、彼はそれを自慢気にしてないからなのかな。
ようするに…
「そんな人に罰ゲームだとしても告白はあんまりじゃないかな!」
「そんな彼だからいいんじゃない!」
「そうよ!大丈夫、噂なんか立ちやしないわ。それに拓海君今は誰とも付き合う気ないみたいだし」
「安心してフラれてってね!」
「わぁい!そりゃあいいっすねぇ!」
まぁもし彼以外に告白していい返事もらえたら罰ゲームってレベルじゃねーぞ!ってなるから絶対断る人にやらなきゃだけど…。
多少噂にはなるのかな…でも私そんな目立った人間じゃないから女子の噂話の中では「拓海君告白されたってー」「5組の子だって」「へぇーあの子地味だよねそれよりさー」な感じに終わるんだ。
むしろそれでいい、変な目で見られなきゃそれでいいっ!
「じゃあ、砕けてくる…」
「いってらー」
「しっかりフラれてきてねぇー」
ぱっと告ってぱっと帰ろう。
*
放課後の教室、校庭では運動部が部活をしており掛け声などが聞こえる。
これといって贔屓されている運動部はなく、仲良く校庭を各々分割している。
工場棟があるから普通の学校より敷地面積は広いけど校庭の面積は特に広いわけでもない。
校庭を見ながらそんな事を思っていたが、そういえば今は呑気になっている場合ではなかった事を思い出した。
「文字通りぱっと告ってぱっと帰ってきたけどOK出されたってどゆことよえぇ!?」
「いや、もしかしてちょっとからかってやるかフヒヒって感じで乗ったんじゃ…」
「ねーよ!拓海君の事どんな見方してんだ」
自分なりに可能性を考えてみたが、どうやら違うらしい。
漫画とかでは学校で一番人気な男子が地味な子に告白されてそれにOKと返す。
舞い上がる地味子だが、ある日廊下を歩いていると閉じられた教室からこんな会話が聞こえた。
『おいモテ男、何であんな地味子と付き合うんだよ』
『いつも可愛子だと飽きるからたまには地味子もいいかなと思ったんだフヒヒ』
「こんな展開だったら早く楽になりたい」
「まずあんたは拓海君について知ろうか」
私は只、高校生活は平穏に暮らしたいんだ!
友達ど馬鹿みたいに笑いあって時々先生に怒られてみたいな…。
更に性格も良く、運動もできるそうで。
そりゃあ、彼氏もできたらどんな感じだろうとかっていう憧れはあったけど、周りから見てあいつとあいつは付き合ってるよ。な感じがいい。
間違ってでも目立った人と付き合うのは避けたかった。
友達とかでいうとそれはかえって自分を目立たなくさせられるが、恋人となれば話は別だ。
藤代拓海と付き合うとなると、私に向けられるものは決まっている。
妬みやらなんやら…いや、妬みしかない。
なんであんな地味な子が拓海君と…ギリッ!
ちょっと貴女、体育館裏に来なさいな展開が待っているんだ。
「そうだ、今から藤代拓海のところへ行こう!正直に罰ゲームって言おう!彼なら許してくれそうだよ!」
「罰ゲームの対象にされてたって知ったら彼はさぞや心が傷つくだろうよ」
「それは主犯者ではなく実行者が悪くなるのかそうなのか」
私は頭は良くないし容姿もとびきり可愛くもないし綺麗でもない。
完璧な人には完璧な人が合うものだ。
お馬鹿さんな彼氏だったら彼女もお馬鹿さんでバカップル。
自分では気づいていないかもしれないが、似た者同士がくっつくのだ。
でも自分に持ってないものを持っている人に惹かれて長く付き合えると聞くから、それが一般的なのかどうかはわからない。
なんのファンにしろ、ファンというものはよくわからない。
抜け駆けはダメ、絶対。
でもその人に見合う人が恋人ならファンは納得。
だがしかし、見合う奴じゃなきゃあ嫌がらせというものが待っているわけだが。
「それだ、そのルートです!どう考えてもバットエンドです本当にありがとうございます」
「まぁ私別に拓海君のファンてわけじゃないから別にいいんだけどね」
「そうそう、拓海君の好みってこんな子かぁへぇそうみたいな?」
どうやら友達が藤代ファンで友情が切れるルートではないのが唯一の救い?であった。
「もう付き合っちゃいなさいよ」
「そうよ!付き合ってるうちに好きになるかもしれないじゃない」
「まぁ、あんたから告白したから好き好きアピールしなきゃいけないわね頑張ってね」
「少しは女の子っぽくなるんじゃない?それにイケメンな彼氏できたのよ!よかったわね」
これが、友情なの…か?
「こうなったら、自然消滅狙うしか…」
何が怖いって?藤代ファンです。
付き合ってる間は何かしら嫌がらせを受けてしまうかもしれないが、別れりゃあ大丈夫だ。
ソフトランニングで徐々にやっていけば気づかれない!
藤代拓海も私が罰ゲームで告白したことを悟られない!
全ては皆が平和に暮らしていくためである。