C+W
□螺旋キャスト
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*
「拓海ー」
「ん?」
「お呼びだぜ」
時間は4時限目が終わって暫く、机をくっつけて昼食の人もいれば早々と購買へ足を運ぶ人と様々である。
拓海も友人と1つの机に椅子を持っていき、弁当を広げていた。
「差し入れか?お前も相変わらずモテんなぁ…なぁ、あの子ってよぉ」
「あぁ、彼女は…」
「藤代君!」
そういえば言っていなかったと拓海は思い出す。
別に言わなくてもいいと思うが、こういうことに関して少し五月蝿いのが友情?である。
しかし紹介しようとしたと同時に彼女の声が被る。
昨日とは違い声に震えはなく、逆に張りのある声で拓海の名を呼んだ。
まぁ聞かれたらでいいかと珍しく面倒くさくなる拓海。
後ろで友人である一二三が何か叫んでいるが、拓海は気にせず彼女の元へ向かう。
「どうしたの?」
「こっこれ!パウンドケーキ作ってきたの!よかったら食べて!」
彼女の手にあったのは綺麗にラッピングされたパウンドケーキであった。
恥ずかしいのか、目を逸らしている。
拓海は目を細め、彼女の手から受け取る。
「美味しそうだね。ありがとう」
「そんな!…今日、一緒に帰れる?」
「うん。迎えにいくよ」
「!…えっあぁじゃあね!」
「じゃあ放課後」
去っていく彼女に手を振っていたら、何やら突き刺さる視線。
案の定、視線の先には仏頂面な一二三がいた。
*
ない頭を振り絞り、考えに考え付いた私の作戦。
そうだ、ドン引きされよう作戦だ。
行き過ぎた愛アピールをすれば彼もさすがに引くだろう。
パウンドケーキは切らずそのまんま。
鞄の場所をとったぜ全く…。
ラッピングされてるとはいえ、デカイと何だか複雑な気持ちになると思ったんだけど…それは友達への場合なのかな。
とりあえずうっとおしいくらいキャピキャピしとけば必ず嫌がれる!これでいく!
放課後、暫くの間友人達ではなく藤代君と帰ることになる。
何せ年齢=彼氏いない歴だからこれが普通なのかと思ったのだ。
「帰ろうか」
教室を出ると彼、藤代君がいた。
不意だったので思わずビクッと肩を震わせてしまった。
「うぅん!」
ぎこちない返事を返し、藤代君の隣に並ぶ。
そういえば、キャピキャピってどんな感じですればいいのだろう?
藤代君に取り巻く女子達のような感じだろうか?
友人達の中に今風な子はいないので、イメージがドラマや漫画からしか想像できない。
確かお喋りとかメールが好きなんだよね?
うわぁ、お喋りは聞く方だしメールは主に用件しか送らない…。
沈黙はあってはならない!
兎に角話す!
「うっ嬉しいなぁ、私本当に藤代君の彼女になっちゃったんだ!」
語尾に☆が付く感じで話を切り出す。
藤代君の家が何処にあるか知らないが、分かれ道まで今日のところは自己紹介で間を持たせよう。
なるべくゆっくり話し、歩調は早く。
慣れた人の沈黙は気にならないけど今日昨日話し始めた人だとこうも苦しいなんて…。
「宜しくね、」
私の名前を言ったあと、彼は思い出したかのように昼休みに渡したパウンドケーキについて言った。
ギクリッと自分で渡しといて思わず冷や汗が出る。
「パウンドケーキありがとう。花達が喜ぶよ」
「花?」
「ああごめん、下宿先の人達」
「え…藤代君下宿してるの?」
「そう。梅星って言う人の所でね。俺の他に4人いるよ」
「凄いね…親から離れて暮らすなんて…」
「まぁ家事してくれる人がいるからね…今度来る?皆に紹介したいし」
「えっ!紹介!?」
まずい、それはまずい。
紹介して数日後彼女と別れたとか後味悪い!
ひっそりとやりたいのに友人達以外の人に知られるのは私としてはよろしくない。
「えぇ〜でも悪いよぉ〜紹介だなんてぇ」
こんな感じか?こんな感じでいいのか?
キャピキャピ且つ遠慮を示した私に、彼は少し照れくさそうに
「見掛けは強面だけど皆良い人達だよ。それに、家族みたいなもんだからちゃんと紹介したいんだ」
眩しいです…。
*
「あ、私こっちの道なんで」
「家はどこら辺?」
「二つ目とこ曲がって左に沿って行くとすぐで…だよ!」
「わかった。じゃあ明日ね、気をつけて」
手を振りながら去っていく彼…何をやってもカッコイイ。
ふと、私は今まで忘れていた事に気づく。
彼に差し入れなんて周りの人達は日常と思っている。
藤代拓海が女子一人と帰宅。
教室からばっちり見られていた。
彼に夢中で周りなんて見えなかった。
「早速やらかした…」
響きだけはいい。