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□何処でも貴方と
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滅多に何処かへ誘う事をしない名無子からの誘いに考えもせず返事をしたのがまずかった。
かと言って結局断ることはしないだろう。
自分自身丸くなったのか、それとも名無子の行動が新鮮だったからなのか。

「本当に来てくれると思わなかった!寿ちゃんてこういうとこ行かなそうだし」

周りは兎に角人だらけ。
かろうじて地面が見える程度。
道も広いわけではないため移動するにも一苦労。
その上、道の両端にはずらりと屋台が並んでいる。
屋台のために並ぶ者も当然いるわけで、今いる空間は大変窮屈である。
だから普段こういった所に好んで天地は行きたいと思わない。
では何故か。

「うふふ…お祭りデート…ふふ」

彼の隣でニコニコと歩いている名無子からのお誘い、お願い、断る理由がない。
だらだらと散策をイメージしていたが現実はそうもいかず、歩いては人とぶつかるの繰り返し。
このどこまで続いているかわからない人ごみを抜けて座りたい、先程からそればかりが過る。

「寿ちゃん!りんご飴あるよ!食べよう!」

ぐいと天地の手を引き屋台に一直線の名無子には人ごみなんて気にせず祭りを楽しんでいる。
「まだ食うのか」
「お菓子系しか食べてないからまだまだいけるよ」

にこりと笑う彼女の表情はとても可愛らしく、本当に楽しんでるのだなと見てとれる。
りんご飴を買い、する食べることなく歩き始める。

「ちょっと休憩しよ」

ようやく思いが通じたのか、屋台が続く十字路の所を区切りとし、端に寄る。
他にも其処で休憩する者が多く、ベンチはどこも空いていなかった。
天地が周りを見ている中、名無子はもぐもぐとりんご飴を頬張っていた。
本当に食べてばかりだと思っていると名無子は食べるのをやめ、りんご飴を彼の口元に近づけた。

「美味しいよ」

好きな物は皆に分ける派の名無子。
彼女の好意に答えるため、身を屈めてりんご飴にかじりつく。

「天地…?」

シャリッ…一口かじったりんごは噛まずに口にそのまま含んだ状態になった。
じわじわとりんごの味が舌に染みていく。

そうだ、祭りなんだから知り合いと遭う可能性はあるじゃないか。
ましてや此処は戸亜留市なのだから。

「あれ?もしかして名無子ちゃん?」
「ん?あ!拓海ちゃん!将五君も!」

「偶然だね〜」と天地にりんご飴を差し出した
ままの名無子は天地と繋いでいた手を離し、拓海達に手を振った。
お気楽な彼女に対し、天地はいまだ動けずにいる。
サングラスによりハッキリと表情がわからないにせよ、この状況で遭いたくない者達に遭ってしまった。
おい、何こっちに向かって来てるんだ。

「よう」
「やぁ、名無子ちゃん」
「2人とも久しぶりだね!」
「……」

振っていた手を降ろし、再び天地と手を繋ぐ動作を2人はじっくり見ていた。
見せもんじゃねぇ…と言いたいところだが、やっとのことで噛み始めたりんご飴を味わいながら言う台詞でもない。

「天地もこういうとこ来るんだな」
「私が誘ったの」
「だろうな」

名無子も加地屋中出身のため、こいつらとは顔なじみだ。
俺が何しようが分け隔てなく接する名無子に拓海達は嫌な顔一つしない。
それがムカつく。

挨拶から始まり互いに調子はどうだとかそんな話になり、3人で盛り上がる。
視線だけ名無子に向けても全く気付かず2人にニコニコする姿にまたイラつく。
黙ってその様子を見ていると今度は自分に視線を感じた。
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