C+W

□いつもと違う仲直り
1ページ/2ページ

「アホ!」
「どアホ」
「馬鹿!」
「大馬鹿」

昼のブライアンには先程から男女の言い争いが起こっていた。
言い争うといっても単語で言えば単語で返すだけで、返している方の清広は雑誌を読みながら気だるく返す。
そんな清広の態度に更に不機嫌になる名無子はまだまだ鳴いている。

周りのメンバーは慣れているのか止めることもなく眺めている。
中には二人を見て楽しんでいる者も。
そんな光景に落ち着かない者がいた。

「頭」
「あん?どうした将五」
「副頭と名無子さんが…」
「いつものことだ!気にするな!」
「はぁ…」

気にするなと言われても今にも出ていきそうな名無子さんを見て俺は一人そわそわしている。
俺だってこの二人の所謂痴話喧嘩を見るのは初めてというわけではない。
普段は普通に仲の良いカップルだが、変な所にスイッチがあるのかよくわからないことで喧嘩が時折見られる。
よく今まで別れないでいたなと感心するほどである。

「もう知らん!清広なんて知らん!」
「はいはい」

ついにソファから立ち上がった名無子さんはわざとどしどしと歩いて出て行ってしまった。
と、思ったらひょこ
っと扉から顔出し

「本当に知らないぞ!」
「はいよ」
「きいい!」

乱暴に扉を閉め、本当に行ってしまった。
はぁ…清広さんがすぐにため息を吐いた。
これから名無子さんの機嫌を取りに行くことになのか、それともしょうがない奴だと思っているのか。

「ははは!相変わらずすげーな!痴話喧嘩は他所でやってほしいもんだ!」
「うるせーぞ鉄生…」
「あの、大丈夫なんですか?追いかけなくて…」
「まぁーそんな心配すんなって将五、名無子ちゃんのことだからまた明日にでもケロッとした様子で来るんじゃない?」

落ち着いてそう将太さんは言うが、こんなんで本当に持つのだろうか。

「…将五、今失礼なこと思ってないか?」
「い、いえそんな…」
「思ってるだろー!」
「いたたたたた」
「将太、清広が我慢できず電話する方に1000円!」
「じゃあいつも通りやってくるに500円」
「賭けるな!」
「(苦しい…)」

それはいつものことだった。

私だって子供っていうほど子供でもないし、いつまでも引きずるほどでもない。
ここは大人として綺麗に切り替え、明日また普通に行けばそれでおさまる!

「清広の女だな?」

せっ
かくシャキッと切り替えていたのに、遮られてしまった。
振り向くと知らない顔。
なんなのか、何故私が清広の彼女と知っているのだろうか。
この世界の情報網はわからない。

「どちら様ですか?」
「いやぁ俺清広に前ボコボコにされちゃってさ、入院するほどね」

もしかして慰謝料が目的なんじゃ…
そんなお金はないし病院送りにしたのは私ではなく清広ですし。

「それは…大変ですね」
「そうなんだよねぇでさ、清広呼んでほしいんだ」
「………」
「彼女の君には悪いけどさ、清広恨んでる奴が俺の他にもいてそいつらと意気投合っていうかさ」

この人、私を脅しているのだろうか。
顔は鉄生君や清広の方が強面だから怖くないし…

「友達増えてよかったですね!それでは!」
「えっちょっと!待てよ!」
「わっ」

走って逃げようと駆け出した時、相手の反応が早くすぐに捕まってしまった。

「だからさ、清広呼んでくれって」
「嫌です」
「大丈夫、乱暴しないから」
「嫌」
「……」

パンッ
左頬を叩かれてしまった。
グーで殴られるよりはマシだけど、叩けば大人しく言う事を聞くわけでもないだろうに。

「調子のんなよ?」
「…あー!」
「え?」

何もないよ!さいなら!」

やっとのことで振り切った。
呼吸を整え左頬に手をやると熱をおびていた。
熱いと感じた次はだんだんと痛みだしはじめてきた。
今日という日はなんでこうもついてないのか。
明日は休みだし家で映画でも観てゆっくりしよう…。



「なぁ」
「おう」
「どんくらい経った?」
「2日くらいじゃね?」
「そっか」
「おう」
「………」

バイトまで時間があったため立ち寄ったブライアン。
いつものように机を囲み各チームの情報やら世間話やらで話題は上がる。
しかし一方で気になることが。

「まーなんつーか、うん!な!将太!」
「お、おう!ある意味新鮮つーか、な!」
「お前ら、それは慰めてんのか?」

来ないのだ。
名無子が、ブライアンに。
清広に電話も一切ない。
自然と名無子が今回のことには頭にきていると悟った。

「つーかよ、お前から電話すりゃいーじゃねーか?そんなイラついてるならよ」
「別にイラついてるねーよ」
「それにしてはやけに携帯気にするじゃねーか」
「気にしてなんかねーよ!」
「おー?やるかー!?」

頭と副頭による取っ組み合いは今に始まったことではないが、皆名無子を気にかけていた。

1人煙草を蒸かす将太は2人のよくある光景を眺めつつ思考を巡らせる。

「ほんと…どうしたのかね、名無子ちゃんは…」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ