C+W

□彼はいつだって本気じゃないか
1ページ/1ページ

※ブライアンの女マスター主

歩く度にガサガサと音がなり、エコバックは今にもはち切れそう。

「ごめんね、沢山持たせて…」
「全然大丈夫ですよ。むしろ、いつもたまり場でお店使わせてもらってるんでこれくらいしか出来ませんし」

買い物途中に拓海君に会い、今の今まで一緒に買い物をしていた。
内容は私が父に任されて経営してる喫茶店の買い出しで、拓海君は快く荷物持ちになってくれている。
彼の所属する走り屋チーム、武装戦線はよく私のお店をたまり場にしている。
最初こそ強面集団で驚いたが、皆礼儀正しい子ばかり。
その中で拓海君は副頭?をしているすごい子なんだ。
知性もあってスタイルもいい…さぞや女の子にモテるんだろうなぁと思う。

「(あ…あのお店お肉安い…)拓海君…」
「いいですよ」

また荷物増えるのかよと嫌な顔一つせずに応えてくれる。
本当にいい子だなぁ。

「すいませーん」
「はぁ〜い」

いつもはスーパーへ行くが生憎今日は改装のため休みとなっており、そういえば商店街で買い物したことがないと思い今に至る。
出てきたのは陽気な奥さん。
商店街らしさというか、とても話が弾みそうな人柄である。
お肉を注文し、会計を済ま
せる。
奥さんがお肉を包みながら私の隣にいる拓海君を見て、顔を輝かせた。

「あら!もしかして新婚!?いいわね〜!コロッケでもおまけしておくわね!」
「…え!いいんですか!?ありがとうございます〜!この人こう見えて結構食べるんでオカズ増えて助かります〜」
「!」
「あらそうなの!?じゃあコロッケもう一個おまけね」
「ありがとうございます〜!」

私も拓海君も吃驚。
即座に応えたらなんとコロッケ3つゲット!
こういったノリが実に商店街らしい。

商店街を抜け、見慣れた景色になっていく。
喫茶ブライアンはもうすぐだ。

「拓海君、着いたらおやつにコロッケ食べようか」

揚げたてホヤホヤのコロッケの袋を持った私は今日とてもいい気分。
そんな私を見て拓海君は優しい表情でニッコリ返した。

「名無子さん」
「ん?どうしたの?」
「俺、名無子さんと新婚に見られてすごく嬉しかったです」
「本当?嬉しいねぇ…私もこんな美青年な旦那の奥さんという称号が」
「いっその事本当に新婚になりたいです」

とてもサラリと言う拓海君に世の女の子は皆惚れてしまうだろう。
だが私は20代を過ぎ、もうすぐ20代後半に入っ
てしまう。
これが大人の余裕なのか、愛の告白を通り過ぎプロポーズをされても彼は二十歳にも満たない青年。
だから可愛いなぐらいとしか思えない。
彼も彼で、きっと大人の女に憧れているのだろう。

「私も拓海君みたいな旦那さんなら大歓迎だよ!でも結婚するにはやっぱり職がないとね〜」
「職…」
「そうそう」

彼が笑顔なのをいい事に私も笑顔で返す。
これが真顔だったら真剣に返さないといけなくなる。
「でも名無子さんの喫茶店で一緒にやってけばいいですよね?」と言う拓海君に対し「ハッ!それもあったね!」と応え、お互いに笑いながら夕暮れを歩いた。



「名無子さん」
「あら拓海君こんにちは」

「今日はまだ誰も来てないよ?」と食器を拭きつつカウンター越しから彼に近づくと、何やら紙の束を取り出した。

「俺、結構前に学校やめて働いてるんですよ。これその店の資料です」
「…え?」
「あと結婚届けです。俺のとこは記入したんであとは名無子さんのとこだけです」
「えっあの…」

本気だったんだ。
あの時の彼はニッコリと笑いお互いワハハと笑いあって終わりではなかっのだろうか。
一緒にコロッケを食べて笑ったではないか。
笑顔の裏では実は私の返答に火が点き加速させてしまっていたなんて。
いつも優しい表情でいる拓海君の今の顔は真剣そのもの。
若い青年ではなく凛々しい男性に見えた。
思えば拓海君は年齢こそ若いがとても落ち着きがあり…軽い弾みで結婚を申し込むなんてしない子だ。
満更でもない私は引き出しから印鑑を取り出してしまった。
必要事項が記入された一枚の紙を見て、「こんなに誕生日が待ち遠しいなんて初めてですよ」と17歳の彼は笑った。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ