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□お使いか何かと思えばいい
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これほどと云う恐怖を味わった事はない。
何故私なんだ、別に私じゃなくてもいいだろと反発したいくらいだ。
いつも心の中では強気でいるが、小心者の自分はそれを実行する事はできなかった。
小学生の頃は比較的積極的だったが、中学に上がるにつれだんだんと大人しくなっていった。

いつからか私は、ただ何の変わりもない平凡な日々を過ごしたいと願うようになった。
危険満載で濃い日なんて1日で十分。
そう思った日はもうずいぶんと前のように思えてくる。



今日はテスト最終日。
開放感でこの後遊ぶのも束の間。
大会が近い運動部はお弁当を持参し、夕方まで練習。
あとは専門委員会で帰宅する人は多数。
バリバリな運動部な友人は部活に行ってしまい、部活にも委員会にも所属していない私は真っ直ぐ家に帰るのがいつもの事。

帰ったら何をしよう。
学校がある日でこんな早く帰るのは何だか不思議な感じである。
店に立ち寄れば、こんな時間に学生?と何だか誤解されそう。
せっかく平日の正午なのだからきっとお店は空いてるしショッピングでもしようと思いたいところだけど、どうせなら友人と楽しみたい。

う〜んと悩みながら歩いていると公園が視界に入った。
正確には公園と云うか広場?いや、違う。
何かこぅ、木が多くて…マラソンとか散歩に合いそうな所。
せっかくだし其処を通ってみようと思う。
普段通らないから何だか不思議な感じかも。

入ってみると、木や草が沢山あるせいか結構涼しかった。
緑豊かな道は天気がいい今日みたいな日のように、木々の間から太陽の光が差し込む様子がとても綺麗だ。
いやぁ、何か和む。
通る道の端にはベンチが置かれている。
きっと御近所の方達などが利用するのかなとぼんやり思いながら歩いていく。
地域の人の手により綺麗にされているため、空き缶一つない。
むしろ一つでもあればそれが浮くほどに気持ちのいい公園なのだ。

歩いていると、遠くの方にある物が落ちているのに気がついた。
ベンチの下にあり近づいてみると、それは携帯電話だった。
汚れなどはなく、まるでさっき落としたかのように置かれている。。
…携帯電話だし、これは届けてあげなくちゃ。
携帯電話を拾い上げ、立ち上がった時だった。
その携帯電話から突然の着信音。
あまりにタイミングがいいので、危うく落としそうになってしまった。
どうしよう、これは出るべきかな?
落とし主が携帯がないことに気がつきかけたのか、それとも普通に知り合いからか。
鳴り響く携帯をいつまでも持っているわけにもいかず、出る覚悟を決めた。

二つ折りの携帯電話を開き、画面を見る。
できれば鳴りやんでくれないかと小さく願う。
躊躇しつつも、私はボタンを押した。

ピッ

「もしも」
「その携帯を持って橋に来い」
「し…」

ツーツー

声の主は男性だった。
いきなり本題を言い、それだけで切ってしまった。
う…拾ったお礼も何も言われなかった…
今から交番に届けてはダメだろうか。
あと橋とは何処の橋でしょうか…
私が届けないとダメかな…でも拾ってしまったからには最後までやろうという小さな前向きさがある。

パタンと閉じて、暫く携帯電話を見つめる。
せっかくの一日が…。
これを届けたら直ぐに家へ向かおう。
寄り道せずに、真っ直ぐと。
何で時間を大切にしたい時にかぎって何かが起きるのだろう。
まぁ、過ぎた事は仕方がない。
届けよう。

私は顔を上げ、歩き出した。

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