C+W

□私は十分頑張った
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…いない。
……この橋にも。
…………

何の罰ゲームだろうか。
とりあえず、言われてから川原に沿って橋を求めて歩いている。
普段なら今頃、電車に乗っているんだろうなぁ…
健康の為徒歩ですか、電車とバスで1時間掛かる通学で徒歩ですか。
でもしょうがないよ、電話越しでは全くそんな感じではなかったけど困っている人がいるのだから。

届けるだけ、届けるだけで帰れる。
むしろ交番に行って預け物の手続きが面倒で拾った人に届けてもらうのが一番なのかも入れない。落とした人にとっては。

しかし、あの人凄い声低かった…怖い人だったらどうしようと、少し震える。
そう思った瞬間、歩くのを停止した。

「や、やっぱり交番の方が…」

いいのかもしれない。と云うか、行くのが怖い。
よかった…今まで通った橋にいなくてよかった…
届けて直ぐに帰してくれないような気がする。
かつあげされたらどうしようと考えていると、私の携帯ではない…拾った携帯から着信音がした。
開くと見たことがある名前が…

ピッ

「…はい」
「今何処だ?」
「えっと」
「早く来い」

ツーツー

あまりにも遅い私に痺れを切らしたのだろう、催促されてしまった。
場所を教えて戴けたら直ぐに向かいます。
この人は何故最後まで人の話を聞かないのだろう。
それにあの態度…失礼すぎやしないだろうか。
でも何故か体が勝手に動きます。
若干歩く速度が上がっているような気がします。
体は正直なのだね。

嗚呼、このまま駅に向かいたい。

*

この橋には…
目を凝らして人を探す。ついでに体も動かす。
これだけ探してますと云う動作をしていれば、向こうから声が掛かるはず。
せめて自分はこんな格好をしてる事を教えてほしかった…
たとえ人がいたとしても何と声を掛ける?
「あの、貴方が私を待ってる人ですか?」とでも言う?
これでは逆ナンじゃないか!したこともないのに!
その前にもう少し言葉を選ぶべきか…

「おい」
「ひぇっ!」

背後から聞いた事のない男性の声。
どどどどうしよう!
だ、誰か私にライフカードを!
…とにかく振り向け!向かないと更に怖いぞ!
ギギギとロボットのような動きで後ろを振り向くと、強面な坊主頭の方がいらっしゃった。

「お前か?」

そして何とも体格のいい…格闘家?
電話から聞いた声と違うけど、よくある機械越しの声と空気からの声との違いだろうか。
たとえ本人でなくとも、この人は事情を知っているようなので携帯電話をこの人に!

「ああの、これ…」

声が小さい!
頑張れ私!!坊主さん、早く受け取ってください!
嗚呼何だかまるでラブレターでも渡しているみたいじゃないか!
勇気を振り絞り、私は携帯電話を押し付けた。
うわぁぁぁ!ごめんなさい!

「では!」

よくやった!花丸だよ、私!

「お、おい」

やばい!逃げろ!じゃなかった、帰ろう!
顔なんで見ていられない。
私は全速力でその場を去った。

バスを降り、私は競歩のような速度で家へ向かった。
見慣れた住まいが見えてくると、更に加速する。
門を開けてちゃんと閉め、駆け足で扉へ向かう。
鞄の小さい口を開け、そこから鍵を取り出した。
だが手が震えて上手く鍵穴に入らなく、暫く苦戦した。
追って来ているわけでもないのに何故か私は焦っている。
ようやく開くとすぐさま中に入り、瞬時に扉を閉めた。
扉に背中を預け、とにかく落ち着こうと自分に言いきかせた。

「よし」

落ち着いた。
それにしても、強面はおろか異性と話すなど滅多にない。
学校は毎日顔を会わせるから嫌でも慣れるから別だけど。
それでも自分からは急ぎの用がある時しか声掛けないし…
それに私は人見知りで…初対面の人に対しては返事をする事すらできない。
あのような強面な人に口を開くなんて、レベルが高すぎる!私にはまだ早すぎる!
冒険系のゲームで云うと、レベル1なのにいきなりラスボスに出会った感じだ。
でも、私はよくやった、自分でも誉めていいくらい!
何だかいきなりレベルが上がった気がする。
落ち込んだらとことん沈む私だが、立ち直りは意外と早い。
私は若干スキップをしながら階段を上がった。

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