C+W

□生け捕りに
1ページ/1ページ

「翼ちゃん、私レベルが上がったよ」
「うん、まず何の事か教えてほしいな」

事は進み翌日の放課後。
教室の中がだんだんと人が少なくなっていく中で、昨日の事を共に帰る準備をしている友人に結論だけを報告した。
友人ことこの翼と云う子は私の幼馴染。
短髪で身長が女子の中で三番目ぐらいに高くてスポーツ万能で、面倒見もいいので友人が沢山います。
バレンタインの時は男子の中で人気がある人達に並ぶほど貰っていました。
「私が男だったらあの子達を幸せにしてあげられるのに」とキザな事を口に出してました。
私とは中身も真逆な子ですが、小学校に入る前からの付き合いです。
普段は翼がボケですが、私のテンションが変だと冷静なツッコミをしてくれます。

「で、何かあったの?」
「私、強面な人と話したんだ」
「この場合、話の内容?それとも強面な人にふれるべき?」
「とにかく、私はレベルが上がったのだよ」
「よかったね」
「うん!」

トントンと教科書を整え、鞄にしまう。
椅子から立ち、少し伸びをした。
そして、廊下に出ると翼がこちらへ振り向いた。

「じゃあ、あたしはこれから部活だから」
「怪我しないよう楽しんでね」
「あいよ、名無子も気をつけてね」

そう言い、翼は手を振りながら体育館へ向かっていった。
私は小さく手を振り、体育館とは反対の玄関へと向かう。
靴を履き、入り口を出て門へ向かうと、何やらいつもより門付近に人が多い事に気がついた。
門の辺りでたむろっているような感じではなく、むしろ少し距離をおいているような気がする。
そして皆の視線は同じ場所を指している。何かあるのだろうか?
私からの位置では死角になっていて見えない。
進んでいくとだんだん見えてきて、それが人だとわかった瞬間、思考が停止した。

だって現れたのは昨日の男の人だから。

それと同時に私はまるで今気付いたかのように立ち止まって鞄の中を調べた。
そしてワザと「忘れた…」と呟き、回れ右をした。
誰も私の今の行動に違和感はないはず。

「……」

あの人…私が彼だと気づいた時、確実に私と目が合った。
むしろあの人は私を見た。
待っていたかのようだった。何で?
この携帯電話は自分のではないって?
じゃあ交番に届けてくださいよ。
でも昨日の「お前か?」は何なんだ?
ただの一方的な勘違い?
そんな事で怒りに来た?
私、何かまずい事を?

…逃げなきゃ。

頭の中が疑問でいっぱいになり、思いついた策は逃げる事。
私がワザと忘れたフリをしたのは周りの目もあるけどあの人を見てではなく、見る手前で校舎に戻って忘れ物かと思わせたかったから。
もう暫く待っている間に裏門から出よう。気付かれないうちに…

この学校の出入り口は正門と食堂付近の教職員用の車が通れる門が現在使われている。
だけど、体育館裏の階段式の門なら今は使われていないし、何より人通りが少ない。
あれだけ目立つあの人と、こんな平凡に暮らす私が顔見知りなんて…
周りになんて言われるか!
別にあの人が嫌と云うような意味ではなく、私は目立つのが嫌で…いやでもあの人顔怖い。
早くこの場から離れなければ!
それに、この裏門の方が駅方面だし…とにかく脱出しないと!

「あ!」

階段!よし、来てない!
一気に階段を駆け下り、任務(?)を果せた事で胸を撫で下ろした。

「(少し、走っただけ、で…手が膝に着くほど、私の体力って…)」

しかし、後はこのまま駅に直行だ!

「お疲れ」
「!?」

シュボッと、斜め前から音がした。
それと同時に顔を上げるとそこには、壁に背中を預け煙草を吸っている男性がいた。
その人の印象は角刈り…なのか?
しかし、この人もこれまた強面な方で。
そして、男性の口から出た言葉は単なる独り言ではなく、私に向けてだった。
この場に私しかいない事で確定した。
でもお疲れって……え?

「ったく、正門で待って素直にそこから出る訳ねぇだろが。あの馬鹿」

これは独り言、か。
どうやら正門にいた坊主の方の事を言っているようだ。
……え、と云う事はお知り合いなんですか?
2人して私を待ち伏せていたのですか?
これは何だか大変な事になっているような気がします。
もう恐怖心を通り越して何も言葉が見つかりません。
私の家は別にお金持ちとかそう云う類ではない。
それなのに、この人達は何で…何で何で何で!
呆然と立ち尽くす私の前に、男が近づき腕を掴んだ。

「ぅあ…」
「捕って食いやしねーよ」

そう言われましても…!
男が歩き出せば、私も進む。

「ガガ!」
「賭けは俺の勝ちだな」
「チッ」

ようやく私の行動に気付いたのか、正門にいた男が裏門へ回ってきた。
どうやら、この2人は私がどう動くか賭けていたらしい。
詰めが甘かった…そして何て人達なんだ!
馬鹿にされているようだ…でも、男性の言う通り行動を読まれていた…なんだか恥ずかしい。
全く赤の他人に自分の恥を晒すなんて。

たちまち私は赤面し、目頭が熱くなってきた。
嫌だ、自分を笑うこの人達が嫌だ。
今すぐ此処から逃げたい。
でも腕を掴まれているため逃げる事はできない。

「おい」

俯く私に、腕を掴んでいる男が声を掛ける。
私はもう片方の、鞄を掛けている腕を動かし鼻辺りを覆って顔を男に向ける。

「何もしねーって。そんな顔すんな」

私が思っているのはそんなんじゃねぇよ。
なんて言えない、口が裂けても言えない。

「んな事はいいから行くぞ」

そう言い、坊主の方はさくさくと歩き出した。
…まだこっちの角刈りの人の方がマシ、だ。
だけど所謂『不良』だと云う事には変わりない。
力を腕に集中させても、男の力に勝つ事はできず私はただ引かれる方向に進むしかなかった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ