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□偶然に似たチャンス
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天地が、若干笑ってた。
あんな顔できんのか、天地って…
俺の手を叩いた時、すげぇ顔してたけどな。
…まぁ、あの男が手ぇ出そうとしてた時ほどじゃなかったが。
いやぁ…おっかねぇ顔してたな。
橋の下で一緒にあいつを見た時、全く表に出てなかったのによ。
走り去った後で唐突に「明日あいつを連れて来い」なんて言うから驚いた。
しかも、あの天地が雑魚相手に計画まで立てた時…過去に恨みでもあんのかと思ったが…

聞いてみりゃ、そんな詳しくは言わなかったが勘でわかった。
…しかしあの女、鈍感にもほどがある。
天地にふっ飛ばされた男に前から狙われてたって気付かないなんてよ…
本当は明日やるつもりだったが、駅向かう途中で見かけて追いかけたらこうだ。
それに、狙ってる女から自分に近づけば、あの男はまんまと聞かれた事答えるし自分に気があるのかと勘違いもするか。
俺達の顔は割れてるし、あいつのバイト先で暴れるわけにもいかねぇし。
惚れた女に調べされるしかないとは苦肉な策だな。
まぁ、状況が悪かった…あいつが迫られてたから天地はいてもたってもいられなかったんだろう。
やり過ぎだとは思うが正当防衛って言やぁ納まるしな。

それにしても…
バレたくなかったのか?
素直に言やぁいいのによ、それなら話が早く済む。
不器用な奴だな、全く。
まぁ、ようやくあの女はそれに気付いたようだがな。
天地が惚れてなきゃ、今頃泣いてたかもな…
だが、これからが本番だぞ…天地。
つーかあいつ等…天地は鬼みてぇなこと言うしあの女も…すげぇビビリで…臆病…

「鬼と鶏…いや、変な組み合わせだな」

俺は煙草に火を点け、反対方向へ歩きだす。
他の奴等は不思議そうな目であいつ等を見ていた。

*

後日、ガガさんにこの件についての詳細を教えてもらった。
天地さんは私なんかの為に計画まで立てて…
でも、恐くてよく覚えてはなかったけど、助けてくれた時の天地さん格好良かったなぁ。
そして私はある事に気がつく。

「天地は普段はあんなだが、お前にかなり惚れてんだな。くさい演出までするくらいだ」
「あの…」
「ん?」
「天地さんはいつ、自分の携帯電話に…掛けました?」
「橋で一服ついたところでだ」
「お、落としたとか、言いませんでした?」
「言ってねぇな。突然携帯貸せって言われてよ」
「天地さんは…私のどこを好きになったのでしょうか…」
「あの時の様子じゃあ…前から知ってた感じだったけどな。俺はてっきり知り合いかと思った」

偶然携帯電話を拾って、届けたのは黒岩さんでもガガさん達は遠くにいたのでしょう?
それまでの生活で、私は天地さんらしき人物を一度も見掛けた事がないんです。
天地さんはいつ、私の事を知ったんでしょうか?

「ある意味、天地の方が怖ぇな」
「……ガガさん」
「かなりの大物に目ぇつけられたな」

そっと、ガガさんは私の肩に手を置いた。
謎が多い天地さん。
自分の事なのに聞き出せない。
そんな所まで臆病だから。

「この思いは胸の内にしまっておきます」
「そうしろ…」

*

三角巾を付け、シワ一つないエプロンを着る。
お店の前に落ちている葉っぱや小さいゴミをほうきで掃き、お店に入る人に笑顔で挨拶をした。
とても綺麗な顔して笑うんだ。
いつの間にか青年の心は奪われていた。



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