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□片思いのきっかけ
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「う〜ん…」
「…名無子さん」
「ん?あ!難波君!」
スクラップ置場の帰り、見覚えのある人が自販機の前にいたので声をかけたら案の定。
喫茶ブライアンのマスター、名無子さんだった。
何やら悩んでいるようで、飲み物にそんな迷う程かと思ったが彼女の手には既に缶が握られている。
「…何してんすか」
「ミルクティーのボタンを押したつもりがコーヒー出てきちゃって!」
なんでだろうなぁと思ってたのと言いつつ、名無子さんは小銭を自販機に入れミルクティーのボタンを押した。
缶を取り出しこちらに向かってきた。
なんだと不思議に思っていると、目の前に缶コーヒーが差し出される。
「ちょっとお茶しない?」
バイクは公園前に停め、公園内のベンチに座り、先程の缶コーヒーを開ける。
こんなとこで名無子さんと一服だなんて…なんか変な感じだ。
ふと視線を感じ、そこを見やると名無子さんが俺の顔をじっと見ていた。
「?…どうしたんすか?」
「難波君の、素顔が見たいなぁ…なんてねっ」
俺は目だけでもわかる程見開く。
まさか彼女がそんな事を言うとは思わなかった。
「…いいですよ」
名無子さんはいつもブライアンでは世話になっているし、この傷を見られて気味悪がるような人ではないからそう応えた。
マスクを外そうと手を伸ばそうとした時、細く白い手が俺の顔に伸びてきた。
どうしようかとしている内に名無子さんの手はマスクに触れ、結局行く末を見送った。
そっとマスクが外され、呼吸が少し楽になる。
火傷跡を見て、名無子さんはどんな事を思っているんだろうか。
名無子さんの目が見開く。
だがすぐに元に戻り、今度は悲しそうな表情をした。
すると名無子さんの手が、俺の火傷跡に触れた。
俺はビクッと一瞬体が震え、まるで石化したかのように固まる。
何、何を…何してんだあんた…
なんでそんな、悲しそうな目をするんだ。
自分の事のように今にも泣きそうな彼女に、俺はただ動揺するばかり。
「もう、痛くないの?」
「ガキの頃の火傷っすよ」
「そうだね…」
名無子さんはマスクを俺には渡さず、付ける時も彼女の手にあった。
耳に手が触れた時、彼女が俺を引き寄せるようにも見えて顔には出さないが俺はかなり焦った。
「難波君をまた一つ知れたかも」
「そう、すか…」
「やっぱり難波君はマスクの方が落ち着くなぁ」
あやすかのように頭を撫でる名無子さんから見れば俺は年下で、名無子さんは大人の女だと、なんとなく思った。
「それじゃあね」と言って、名無子さんは行ってしまった。
公園のベンチに座ったまま、彼女が消えるまで眺めた。
明日ブライアンに行こう。
ドクドクと高鳴るこの心臓の音が何なのかわかるかもしれない。