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□それ程までに好きなのか
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最初に出会った彼の髪型はワックスをふんだんに使ったように逆立っていて、その強面が更に強まった。
正直ヤバイ系の人だと思った。
だけど話してみれば人懐っこくて、弟にすればすこーしだけ可愛げもあるし兄にすれば頼り甲斐がある人だと思った。
好きだ、付き合ってほしいと言われた時は迷ったけど、今私は別に彼氏が欲しいという気持ちはなかったので断った。
けれども彼は諦めず「俺のどこがいけない?直す!」と言われたので特に無いというのが正直なところだが、さすがにそうは言えなかったので「髪…坊主とか、スッキリしてる髪型が好みなの」と言っといた。
彼の真逆の髪型だ。こだわりがあるんだろう、剃り込みは別としてそう簡単にはいじれない髪型だから私に言われたくらいじゃ…ちょっとやそっとじゃ…と、思っていたんだけど。

「え…鉄生、君…?」
「おう!俺だよ!」

丸坊主。
そりゃあ見事に。
触ったらあのジョリジョリ感が堪能できそう。

学校が終わってお腹すいたなぁと思っていたら鉄生君から夕飯のお誘い。
告白を断ったけど諦めてはおらず、こうしてご飯や遊びに誘ってくる彼は友人として好きだ。
待ち合わせ場所に着いて彼を探すも見つからず、電話をした

そしたらすぐ傍で着信音がしたのでなんだ、近くにいたんだとその方向を向いたんだ、でも其処にいたのは逆立った髪の人ではなく…

「坊主にしたんだ…」
「だって名無子ちゃん、坊主好きって言ったから」

私のせいだー!
その場しのぎで適当に好きと言った髪型に仕上げてくるなんて思いますか?いや思わない。
喜ぶどころか罪悪感に陥る。
どうしよう、私の反応を待っている鉄生君はまるで恋する乙女のようにもじもじしている。
ごめん…ごめん鉄生君…折角の髪をバリカンで一瞬にして…

「ぼ、坊主似合うね!」
「そうか!前もしばらく坊主でよ、やっぱこっちのが落ち着くんだよな」

よかったー!経験済みの髪型だったー!
彼も落ち着くと言ってるし少しだけ罪悪感が救われた。

「名無子ちゃん」

あ、これやばい。そう思った。

「俺、名無子ちゃんが好きだ。付き合ってくれ」

伝わった…伝わったよ…女の子で言えば腰まであった長い髪を運動部の子のように短髪にする程の事を彼はいとも簡単にやってしまったんだ。
この罪悪感から、逃れたい。

「ごめんね…」
「やっぱ、俺じゃダメか」
「その事じゃなくてね」
「?」


告白以外の事ではなくなんなんだという顔。いやごもっとも。
取り敢えずこのまま黙っておくわけにはいかない。
断った理由が髪型なのでその髪型にしても断られるという事は何かと理由をつけて自分を拒否している。と、思ってほしくないから。
あと罪悪感。これが大。

「髪型、坊主好きっていうのは嘘っていうか…本当はどんな髪でもいいの」
「……」
「私は今彼氏ほしいわけじゃないから…鉄生君だから断ったんじゃなくて、こんな気持ちだからちゃんと付き合う事できないというか…」

髪型については本当に申し訳ないと思ってる。
でもまだ10代だから髪は生きている!
それに坊主にした方が毛根強くなるっていうし!

鉄生君の顔を見ることができなかったが、そろりと見ればバッチリ目が合う。
真顔の表情に少しビクついた。

「名無子ちゃん、今まで付き合った事ある?」
「ご覧の通り、ないです…」
「俺と付き合ってみて」

付き合って…み、て…?

「お、お試しって事?」
「そゆこと」

でも、付き合うというのは互いが互い、好きだからであって…
友達以上の気持ちになれなかったらどうすればいいんだろうか。

「絶対俺を好きになるよう努力する」

ビシッと決めた彼が、ちょっとだけカッコイイと思った。



「鉄生君、ちょっと動かないで」

カシャっと携帯のカメラ機能が作動する。
またフォルダに鉄生君が加わった。

「もうブログ立ち上げて『今日の鉄生君』みたいな感じで載せようかな」
「俺の情報ダダ漏れだな」
「つーか毎日撮ってどうすんだよ」
「いやぁ、だって…」

鉄生君カッコイイんだもん。

そう言うと鉄生君はまいったなー!なんて頭をかく。
あ、その姿もいい!カメラを構えたが瞬時に清広君が鉄生君の頭を叩いたためブレてしまった。

「まぁ、まさか…名無子ちゃんを追いかけてた鉄生が今では名無子ちゃんの方から絡みにきてもらってるとはな」
「もらってるとはなんだ!」
「その通りだろ」

ほんと、将太君の言う通りだ。
毎日鉄生君に会いたいほど私の気持ちは鉄生君に向いたのだ。
だって…だって…

「金髪オールバックに白のライダース似合うのはこの世に鉄生君しかいないと思うの」

まさかそれが私のドストライクだとは彼がそのスタイルになるまで気づかなかった。
でも彼が六代目頭になるまで傍にいたということはすでに私は鉄生君を好きになっていたのかも。

「なるほどぉ〜?俺も白ライダース着るか」
「おい清広何言ってんだ?マジでやめろ?ここまでくるのにスゲー時間かかったんだぞ?」
「ハッ!なんだよそのスタイルじゃなきゃ好かれてる自信ねーのか?」
「なんだとコノヤロー!」
「で、実際鉄生がまた坊主にしたらどうなの?名無子ちゃんはさ」

恒例の取っ組み合いが始まる中、将太君が問いかけた。
確かに今の鉄生君は好みだけど、もう鉄生君自身が好きだからどんな髪型でも構わない。
坊主かぁ…

「惚れ直す、かな」

私に対する彼の愛が伝わった髪型だから。

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