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□もしもしお嬢ちゃん
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目の前に女の子がいる。
4、5歳くらいの。
周りを見ても親らしい人間はおらず、この空間には自分とこの子だけ。
はぐれてしまったのだろうかと思ったが、女の子は堂々とこの道を歩いており、はぐれて不安になっている様子ではなかった。

「お嬢ちゃん」

思わず声をかけてしまった。
この街は人はいるが喧嘩っパヤイ奴ばかり。
そんな血の気の多い奴らがいる中で女の子1人というのは危険すぎる。
はたから見れば誘拐犯だと思われないだろうか…少し不安なった。

「おにーちゃん誰?」

振り返った女の子はとても可愛らしい子だった。
大きな目にいいところの子なのか、服装がまさにお嬢ちゃんて感じだ。
斜めがけの鞄を身につけていて…いやほんと可愛いなこの子。
…こんな分析してるとまさに危ない奴じゃないか。

「俺は世良直樹。こんなとこで1人は危ないぞ?」

大通りまで誘導…いや俺が怪しまれる。
道案内が無難か?
声をかけたはいいものの、自分の見かけじゃあこの子との組み合わせが危ない臭いしかしない。

「私はね、名無子って言うーの!探してるの!」
「名無子ちゃんか、何を探してるんだ?」

目線を合わせるようしゃがむと、俺が怖くないのかフフフと微笑む。
子供ってこんな可愛い生き物なのかと実感する。

「あのね、ひさにゃん探してるのっ」
「ひさ…にゃん?」
「うんっ!」

どうやらこの子、名無子ちゃんは猫を探しているらしい。
飼い猫か野良猫かは別に聞かなくていいか。

「どんな子なんだ?毛の色とか」
「うーん…白っぽい…」

ぽいって何だ…汚くて灰色…?ということは野良?いや、白でブチがある猫かもしれない。
やばいな、声をかけた以上そうか頑張れと言って置いていくわけにもいかない。

「せらにゃん、飴あげるね」

鞄から飴が取り出された。
開けた時に見えた鞄の中身はお菓子ばかり。
携帯は…持ってないよな…

「ひさにゃんは気まぐれなの」

そう言いながら俺の手を引いて歩きだす名無子ちゃん。
猫の捜索に俺強制参加なのか。
ふと、自分の呼び方に違和感を持ったがそれがなんなのか今は理解出来なかった。



道行く中で、人とすれ違う度に視線が痛い。
俺が引いていると怪しいが、まだこの子が引いているため通報はされなさそうだ。
猫が見つかるまでこうなのか…今日中に終わるのか…?
そうぐったり思っていると急に今まで握りしめられていた小さな手が離され、少しだけ感覚が残る。

「ひさにゃん!」

そう言って走り出す名無子ちゃん。
よかった、見つかった。
視線を名無子ちゃんからその向こうに目をやると、猫らしからぬ物。いや、者。
そいつの脚に抱きつき、すぐに抱き上げられた。
脚から上へと視線をやると黒のズボン、白の服と名無子ちゃん、そして…

「天、地…?」
「お前…」

天地を見て1つ引っかかっていた疑問が解けた。
俺の事を「せらにゃん」と読んでいて天地の名前は寿、つまり…

「ひさにゃん!せらにゃんだよ!」

わぁ…確かに白っぽい髪だな、うん。
色々と混乱していてどうしようもできない状態の俺。
あの天地が幼女を抱き上げている…天地をにゃん付けで読んでいる名無子ちゃん…それに何も怒らずむしろ可愛がっていそうな様子も伺える。

名無子ちゃんを抱えてこちらに向かってくる天地。
普段冷徹さがヒシヒシと伝わる奴だが、今の天地はそれを消し去るほどのインパクト。

「い、妹か?」
「…そんなもんだ。世話になったな」

そう残して行ってしまった天地。
抱き上げられながらも「じゃあね!せらにゃん!」と言う名無子ちゃんは、肝が座っているのか俺の知ってる天地を知らないのか。
きっと両方だ。大事にされてるんだろうよ。

「まぁ、あんな可愛い子だったら大事にしなくなるか」

天地の意外な一面を見れた。
俺も妹がいたら、あんな感じになんのかな。
1人煙草をふかしながら、いつまでも手を振る名無子ちゃんに、見えなくなるまで手を振り返した。

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