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□ここは窮地
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弟、恵ちゃんがチームを作ってから怪我の数が今まで見てきた以上に凄まじかった。
それは恵ちゃんの友達である定政君達も同様で、けれども弱音を吐くことも心が折れる事はなかった。
これ以上は身体が持たないのではないかと不安になるが、私がとやかく言えるものではないし、この世界はこういうものなんだと思った。

恵ちゃんは本当に友達思いで、今日は確か定政君達のお見舞いに行くとか言っていた。
寝起きの頭で思い出す。
読書をしていたつもりがいつの間にか寝てしまっていたようだ。
外は暗くなっており、昼から読んでいたため節約とばかりに部屋の電気は点けておらず、現在周りは真っ暗闇。
ほのかに外の街灯が部屋を照らす。
まだ恵ちゃんは帰ってきてないようだ。
立ち上がり部屋の電気を点けようとスイッチに手を伸ばす。

「おいッ!出てこい!」

突如玄関の扉が乱暴に叩かれた。
あまりの大きさに体がビクッと反応する。
宅配ではなく、まるで取立てのように叩く音も声も大きい。
ドンドンと叩く音は鳴り止まず、むしろ先程よりも更に乱暴になっていく。
借金などしていない、ではこの人は何者なのか。
今この家には私しかいない。素直に出るか無視するか。
頭は冷静であるが手は震え、心臓はバクバクと音が聞こえるほどに波打っている。
幸い部屋は暗く、相手も本当に中に人がいる確信はない。
わずかに動く足で静かに窓に近づく。
玄関扉の覗き穴を覗く勇気はなく、物音でも立てようものなら一巻の終わり。
嗚呼でもこの窓からでは玄関は死角になっていてどんな人物が確認できない。
そう思いつつも窓の外をカーテンの僅かな隙間から見て、愕然とする。

外にいるのは1人2人程度ではなく、数十人。
あまりの多さに思わず声が出そうになったが、必死に堪える。
もしかして、恵ちゃんが言ってた敵チーム…

「おい恵三〜!いるんだろぉ〜!」

間違いない、そうだ、なんで、家まで、押しかけてくるんだっ。
恵ちゃんはいません。と言えば素直に帰るだろうか?
叩く音は一向に鳴り止まない。
怖い。今この状況1人というのに恐怖している。

そうだ、警察!
こんな夜遅くに尋ねるなんて近所迷惑もいいところ。
充電器から携帯を抜きダイヤル画面を開いたがすぐに思い留まる。
警察なんて呼んだら恵ちゃんのチームにも飛び火するのでは…?
これがキッカケとなり、このチームも解散になってしまうのではと、ここにきて慈悲が芽生えてきた。
そういえばこの迷惑な人達は何処の人なんだろうとまた静かに窓の外を見る。
といっても、私はこの街の不良達に詳しいわけではないのだけれど。

「なぁ〜いねーんじゃねーの?」

そうだ帰れ帰れと思いつつ、彼らをじっくり見る。
チームなら、何かマークとかあるん…じゃ…
暗い外に溶け込む彼らの服の色は黒。
違和感のなさに最初はわからなかったが、共通点がもう一つ。

「特攻、服…?」

まさかね。
だって、あの人のは白だったもの。

1人が後ろを振り返った。
背中には見覚えのある文字の刺繍。

「百、鬼ッ!?」

思わず携帯を床に落としてしまった。それがいけなかった。

「おい!今中で音したぞ!いるんじゃねーかッ!!」
「あぁ…ぅ」

どうしよう、どうしよう!
け、恵ちゃんを呼ぶ!?
呼んだらすぐ飛んできそうだけども、こんな大人数の中に恵ちゃんを来させるわけにはいかない。
不安と恐怖が一気に加速し、ボロボロと涙で目の前が歪む。
床に正座して、体を丸める。
震える手で電話帳を開いても誰に助けを求めればいいかわからない。

最後に行き着いたその他のグループ。
でも、彼は…だけど、今頼れるのは…でも、もし…もしあの中に彼がいたら…
白の特攻服を着ている人はいなかった…
優しそうな彼が一瞬、黒い笑みを浮かべるのが脳裏に浮かんだが必死にかき消す。
どの道この状況を変えないといけない。
意を決してダイヤルボタンを押した。

扉の叩く音は耳に痛くうるさい。
しかし、プルプルという音が嫌によく聞こえた。

『もしもし』

その声は今一番安心する声だが、同時に更なる不安を増すこともできる。

「ち、中條さ…ん」
『名無子さん?どうしたんだ?』
「いっ今、何処にいます、か」
『家だけど…名無子さん、声震えてる?』

よかった、彼はあの中にいない。
それだけでも十分不安が取り除かれた。

「わ、私の家にっ」
『名無子さん?』
「ひゃ、百鬼の人達がっ」
『え?』
「と、扉っ叩かれてて」

ドンッ一段と大きな音がした。
ついには蹴るほどまでにエスカレートしている。
その拍子に携帯を落としてしまい、慌てて拾う。

「中條さんっ」

これは賭けだ。

「助けてっください…」

恵ちゃんを来させるのはやめたのに、では中條さんはいいのか。
中條さんをこの大勢の中に来させて平気なのか。
平気だと言ったら嘘になるが、恵ちゃんよりは無事だという確信があった。
あの日彼の部屋で見た特攻服に、"百鬼"という文字が刻まれていたから。

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