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□あんな出会いで良いならば
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学校の帰りにスーパーへ寄って、菓子折りを購入。
クリーニング屋さんにも行って中條さんに借りた洋服も綺麗になって回収。
ビニールとタグを外して洋服を紙袋の中に入れ、さでどうしようかと悩む。
このまま中條さんの所へ訪ねようか。
そういえば中條さんは学生さんだろうか…それにしては落ち着きがあるし家も一人暮らしのような感じだった。
でも学生だからといって一人暮らしは珍しくないし…
もしかしたら日中は仕事をしているのかも。
一応メールしてみようと携帯を取り出す。

不意に、目の前が騒がしくなる。
見やるとそこには男性が数人…

「とっ…!?」

危ない危ないと手で口を塞ぐ。
思わず声に出してしまうところだった。
いやしかし…目の前に、特攻服を着た人達が現れたら誰だって驚く。
男達は何も看板が出ていないビルに入っていき、其処は彼らのアジトなのだとすぐに理解した。
…こんな所にアジトがあったのかと少し身震い。
最後の一人が入って行くと、見覚えのある文字が見えた。
黒の特攻服に背中の文字…

「あの!」

思わず声をかけてしまった。

強面な特攻服を身にまとった人達のうちの一人が振り返ったのですかさず駆け寄る。
家に押し掛けられたこともあり多少ビクつくが、彼らに顔を見られてはいないので大丈夫、大丈夫だ。

「ひ、百鬼の方ですよ、ね?」
「そうだけど」
「中條アキラさんて…いらっしゃいます?」
「はぁ?」

見ず知らずの女がいきなりこんな事を言ったらこう返すのも無理はない。
もしかして、同じチームだけどその中でまたグループが違うのだろうか…
中條さんの特攻服は白、この人は黒。
いや、それか呼び出すにしても彼らの世界ではなんらかの作法があるのかもしれない。
勢いでしてしまった…どうしよう。

「総長に何の用だ…?」
「ソウチョー…?あっあの、洋服をお借りしたので返したいのですが…今このビルにいらっしゃいます、か?」
「は?総長の服?」

きっと目の前にいるこの人とは同世代なんだろうけど少し怖気付く。
恵ちゃんも喧嘩はするけど、あの子可愛い弟だし友達の定政君達もいい子だけど、皆が皆いい人というわけでもない。
というか、こんな事をしなくても今さっき連絡しようとしたのに何してるんだか。
百鬼という文字を見て思わず行動してしまったのだ。

「あんた、まさか…」
「え?」

まさかって?………ハ!?
まままっまさか、中條さん私とのこと話したりしたの!?
あの事件!悲劇を!?
この前女助けたら身ぐるみはがされたって!?は、恥ずかしー!
いや!それか居留守使った奴だというのがバレた!?
そっちの方が身の危険を感じる。

一人思考が加速する中、目の前の男はビルの中に居た人に声をかける。

「おい!総長今来てるよな!?」
「おう、いるぜ。どうした」

先程までのどっしり感は何処へやら。
急に慌ただしくなったが、どうやら中條さんに会わせてもらえるみたい。
人は見かけによらないんだ…

「総長の彼女さんが来てんだよ!通していいよな!?」
「マジかよ!俺総長に知らせてくるわ!」

……えっなにこれ。

「さ、どうぞ」

待って。

「おー!お前らどけ!総長の彼女さんが来てんだぞ!さ、どうぞ」

どういうことなの。

階段に座っていた人達はザッと音がする程素早く道を空ける。
そして突き刺さる視線。
「この人が…」とか「初めて見た…」など聞こえてくるが、どうしよう!
訂正する間もなくテンポよく皆さん勘違いで展開していらっしゃる。
私も私ですぐに言えばいいものの、つくづく予想外の事が起きると何もできやしない。
そうこうしている内に部屋に案内され、中に入るとそこには中條さん。
ええ、そりゃあ驚くでしょうね。

「名無子さん…なんで…」
「いやあの、私もどうしてなのか…」
「総長!彼女いたんですね!美人じゃないですかー!さすがっ!」
「えっいや!あの!」
「あ〜ちょっと席外してくれない?」
「了解っす!」

そう言うと部屋にいた中條さん以外の人は出ていってしまった。
取り敢えずそうだ!事情を説明して服を返そう!

「中條さんこれは」
「座りなよ」

ポンポンと隣の椅子を軽く叩く中條さん。
出会いが出会いなだけあって未だ恥ずかしい気持ちもあるが、先日の事で大分中條さんに安心してしまっている。
「失礼します」と言い、素直に座る。
一先ずなんで此処に来たのかを説明した。
説明し終わると「そういや特攻服壁にかけてたわ」なんて呑気だ。
1つ、興味本位で聞きたい事がある。

「あの…皆さん中條さんの事を"ソウチョー"って…」
「ん?ああ、俺百鬼の総長だからね」
「え…」

へぇ…百鬼のソウチョー…ソウチョウ…そうちょう…
総、長…?

「総長!?」
「うん」
「総べるに長!?」
「そうだよ」

そうか、だから中條さんの服を持ってそれを返しに来たから彼女かなんかと勘違いされたんだ。
総長だから百鬼の人達をすぐに帰らせることもできたし…
ということは私は今までというか、あの夜からおっかない人達を束ねるこの人にお世話になりやらかし…

「中條さんこちら、服とせめてもの菓子折りです!お収めください!それでは!」
「まぁまだいいじゃん」

早々に退却しようとしたら手首を掴まれ阻止された。
まずいっ新たなる緊張感が走る。

「そ、総長さんだとは知らず、かかっ数々の御無礼を…」
「そんな大それた者じゃないって。リラックスしてよ名無子ちゃん」

ちゃ、ちゃん!?男の人に名前にちゃんなんて呼ばれるのは小学校以来だ…じゃなくて!
私達がのんびりしている中、外では百鬼の方達がとんでもない勘違いをしてるんです!
誤解を解きに行かないと!
彼女だと思われている事を中條さんに伝えても、彼は「へぇ〜」と言うだけで掴んでる私の手首を離したと思いきや、優しく私の手を撫で始めた。
わぁ…なんか甘い雰囲気…
…この人はテンパる事を知らないのか!

「あの日から、名無子ちゃんが頭から離れなくてさ」
「あ、あの日!?」
「うちのもんが家に押しかけた日ね」

いやほんと総長自ら来てくださりありがたき…

「それに名無子ちゃんの裸も見ちゃったから責任も取らなきゃなと」
「いやいやいや!私が勝手に脱いだことですし!それにあろうことか中條さんのふ、服をっ…」

恥ずかしい。自分で言ってて恥ずかしい。

「俺、名無子ちゃんが好き」

……は?

「ち、中條さん?」
「名無子ちゃんに上に乗っかられた時はドキッとしたな…酔いが覚めた後も可愛いけど」
「うぁっ中條さん!」
「こうして来てくれて、あいつらに俺の彼女って言われて嬉しかったな」
「なっ、な…」
「昨日今日出会った奴にこんな事言われて困るだろうけどさ…」
「え!いやっ困るだなんて」
「この前の名無子ちゃんに助けてって言われた時、頼られてるって喜んじまった」
「そ、その節は本当にありがとうございますっ」
「俺の事どう思う?名無子ちゃん」

どうって…会ったばかりだし…それなのに助けてくれて…優しくてかっこよくて皆から信頼されてる人なんだなとは思う。
だんだんと中條さんが近づいてくる。
ついには吐息がわかる程に。

「名無子ちゃん」

あと、自分のペースに持っていくのが得意な人なんだなと思った。
数十分後、この人と手を繋いで部屋を出るなんてビルに入る前の私には想像できなかっただろう。

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