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□虫除けアイテム
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学園祭の出し物の1つである喫茶店。
メイドやら男女逆転やらテーマは様々である。
どんなテーマにせよ、衣装の入手には少し手間取る事も。

「そんな訳で私のクラスはヤンキー喫茶になったんだよ」
「…客来んのか?」
「女子高だからスケバンがいるかもね!でもなるべく衣装はかぶらないようにって言われた !てなわけでライダースジャケット貸して!」
「やだ」

将五の幼馴染みである名無子は高校に上がってからもよく遊んだりする。
兄である十三とも親しく、その影響もあって周りの強面達を見てもちょっとやそっとじゃ怖気付くことはない。
現に学校の帰りにブライアンへ容易に来る程。

「十三君の頃はまだ特攻服あったけど、時代だなぁ…だから貸して!」
「そんな簡単に貸せねーよ」
「周りに武装以外の不良いないんだもん!」
「不りょ…俺らは走り屋のチームで」
「あ、将五じゃなくても十三君がいたわ!十三君に借りようかな」
「あのなぁ名無子…」
「でも皆体格いいからやっぱり将五とか拓海くらいのサイズがまだ…あ!拓海!ライダースジャケット貸して!」

どうやら武装のドクロ印のライダースジャケットを借りるのは決定事項のようで、ちょうどブライアンにやって来た拓海を見つけては今にも脱がさんばかりに袖を掴む。
突然の名無子の行動に怒ることもなく、優しく笑う拓海は名無子の肩を掴みなだめる。

「どうしたの?名無子」
「文化祭でヤンキー喫茶やるからそのジャケット貸してほしい!」
「ヤ、ヤンキー喫茶…」

驚きつつも事情を話せば拓海はニコリと笑い、了承してくれた。
試しに拓海のジャケットを着た名無子はやはりそこは男女の差。
ブカブカで袖からは手のひらすら見えない。

「お、重い…」
「まぁね」
「あれ?このジャケット拓海のだけどその前は柳さんのじゃん!申し訳ないからやっぱいいや」
「俺の兄貴はいいのかよ?」
「という訳で将五!貸して!」
「振り出しに戻った…」

頭をかかえた将五だったが、ふとある事を思いつく。
名無子を見やればポカンとしているがそんなことはいい。

「学校には身内以外も来んのか?」
「チケット制だったけど受付で名前記入すれば…」
「緩いね」

拓海も話に加わる中で、将五はしばらく考える素振りをする。
何をそんなに考えることがあるのかと思わず拓海と目を合わせる名無子。
すると将五は「わかった」と言い、ジャケットを脱ぎ名無子に渡した。

「着てみろ」
「え!いいの!?」
「ああ」

やったー!と嬉々として袖を通す。
が、やはり名無子には大き過ぎる。

「何企んでるの?」
「…虫除け」
「虫除け…?あ、そうかなるほどね。てっきり名無子が俺のジャケット着たから嫉妬したのかと」
「少しな」

この街で、武装戦線を知らない者はいない。
時にはそれで狙われ、時には恐れられる。
その名を聞いた時かまたは背中のドクロを見た時に。



「名無子!ずいぶんかっこいいの手に入れたね〜」
「でしょでしょ!ライダースジャケットっていいよね!」
「ヤンキーというよりバイク乗りって感じ!私は父さんから短ラン借りた」
「マリちゃんのお父さんの新たな過去を知ったよ…」

名無子の通う女子高はごくごく普通の学校で、ギャルもいればスポーティーな子もいる。
しかしどうやらスケバンはいないようだ。
名無子の着るライダースジャケットを見てもクラスメイト達は皆カッコイイと言うばかりで誰も武装戦線とは口にしない。
女子にとってドクロといっても武装戦線だけを指すマークではなく、ファッションの1つとして見ているようだった。
といってもこの格好で学校内を出歩けば何人かはわかるかもしれない。

「さっ、名無子!宣伝に行くよ!」
「はーい」

格好が格好なだけあって、すれ違う人は2人を振り返る。
友人であるマリは服装が短ランだけでなく、頭もワックスを使い髪を立てており実に様になっていた。
かくゆう名無子もライダースジャケットにブーツ、髪型は将五のように整え長い髪は後ろに流している。
時々聞こえる「あの人達カッコイイ」はこの2人に向けられた言葉だった。

「ねぇ君達」
「その格好面白いね」

当然2人に惹かれて声をかける者も。

「ヤンキー喫茶?やってるんだ」
「あ!どうですか?休憩がてら!」
「いいね〜君達みたいにキマってる子他にもいるの?」
「いますよ〜」

どうやら大成功のようだ。
所謂異色な組み合わせは人をより寄り付かせる。

「では御案内します!」

くるりと方向転換し、自分達のクラスへ向かう。
宣伝に歩いて早々とお客さんを得たことに嬉しく思う名無子達だった。

「ハッ!?ドク…」
「ん?どうし…うわぁ!」

突然、後ろにいたお客さんが声をあげた。
私もマリちゃんもどうしたのかと彼らを振り返る。
振り返った時には先程の男達の背中が遠くに見えた。

「えぇ!?何なの!?」
「冷やかし…ではなさそうだったけど」

自分達の前後左右を確認しても、大の男が恐るようなものはない。
一体どうしたのかと思っていると、マリちゃんが「あ」と声をもらす。

「名無子、そのジャケットってさ…」
「ん?知り合いから借りたよ?」
「ドクロ…もしかして」
「武装戦線だけど…」
「はぁ…」
「え!何何何!?」

そういえばマリちゃんのお父さんは何回か見た事があり、とてもロックな容姿であり格好だった。
マリちゃんが今着ている短ラン昔を見れば昔ヤンチャしていた事にも納得。
そんなお父さんの友達もそのような人が多いので、自然とヤンチャな彼らの情報を嫌でも聞かされるとこの間マリちゃんが言っていた。
だから彼女にはこのドクロが何なのかわかるわけで。

「だからさっきの人達背中のドクロ見た途端怖くなって逃げたんだ!すごいね武装!」
「客を逃したんだよ!」

マリちゃんは廊下にいることも構わずめいいっぱい叫んだ。



「で、その後どうなった」
「裏方に回されたよ!せっかく格好もそれっぽくしたのに!」
「何…?写真あるか?」

携帯に記念に撮った写真を見せる。
それを見た途端将五は口元を押さえた。
無言でいる将五の両脇から拓海と奈良君が覗く。

「お!カッコイイね」
「女版将五って感じだな」
「皆も来ればよかったのに!」
「得意先の仕事が入っちゃってさ」
「俺もバイトが臨時でよぉ」

3人で和気あいあいとしている中、スッと将五は名無子に携帯を返す。

「その写真送ってくれ」
「はいよ。将五も来れたらよかったのにね」
「ああ本当にな。でも名無子が裏方に回ったみたいでよかった」
「え!なんで!?」

売り子や宣伝の為に借りて気合いを入れた格好にもかかわらず、何故裏方で安心されているのか##name1##には理解できなかった。
そしていつになく真剣な顔をした将五が深くにもカッコイイ。

「今度この格好で来てくれ」
「いいけど…?」

時々将五が何を考えているのかわからなくなる。
だけどそんな彼のお願いにすぐ応える私も私だけど。

2人のやり取りを黙々と見ていた奈良と拓海はそっと耳打ちをした。

「将五はこういう格好が好みなのか?」
「相当気に入ったみたいだね…将五…」

後に一部のところで武装戦線に女が所属しているという噂が広まった事は、言うまでもない。

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