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□カタチ
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今日は世に言うバレンタイン。

日本では女性が男性にチョコレートと云う、甘いお菓子を贈る日である。

思春期の男子学生は若干ドキドキする日ではなかろうか。

近代では本命よりも義理、友チョコが多くなっているらしい。

何にせよ、祭り好きのこの国は今年もいろんな意味で賑わっている。

此処、喫茶ブライアンも。


「で、お前等はどうよ?」

「どうも何も…」

「無いですよ…」


女性から貰えたかどうかで賑わっている。

しかし学校へ行ってない彼等には、そう云う機会がなかった。

そのため彼女がいる者はごくわずか。


「ぎゃはははは!!だよな!?」

「お前もだろ、源次」

「……お前もじゃねぇか、玄場…」

「おい、隅で『の』の字を書くな」

「源次さん…」

「しっしょうがないじゃないっすか!!全然交流とかないんすから!!」

「……お前等何やってんだ?」


先程からその様子を見ていた好誠はやっと口を開いた。

隅で『の』の字を書く源次の傍で腕を組んでいる玄場。

そんな源次に話を合わせている将太と清広。

見ていてむなしくなる。

好誠が言ったと同時に、源次はバッと顔を上げ、振り返った。


「モテ男にはわからねぇだろうよ!!」

「……モテ男ってお前…」

「俺は知ってんだぞ!!此処に来る途中に可愛い子から貰ってたじゃねぇか!!」

「どっから見てた…?」


カランコロン


「チィーッス!!あれ?んな所で何してんすか、源兄」

「!!!…鉄生」


バッと立ち上がり、ツカツカと鉄生に歩み寄る。

言わずもがな、標的は鉄生に変わった。

ズイッと、源次の顔が近くなり、睨みをきかす。


「お前も敵だ!!!」

「何なんすかっ!!」


鉄生に怒鳴り、また隅に座り込んでしまった源次。

訳の分からない先輩に対し、どうすればいいか分からない鉄生。

そんな彼に救いを差し伸べる将太。


「ほら、今日バレンタインだろ?」

「嗚呼、それでか…え?俺当たられたの!?」

「で?お前はあの可愛い可愛い彼女ちゃんから貰えたのか?」


ニヤニヤと鉄生に近寄る清広にイラッときたが、それは直ぐに治まった。

そんな鉄生を見て不思議に思った好誠と将太。

そんな鉄生を見て笑いが込み上げる清広と源次(復活)。


「何か最近、用事用事って事であんま会えなくてよ…今日は会えるかなって思ったが連絡つかねぇし…」

「鉄生…」

「「振られたんだな!」」


同時に放たれた言葉。

今の鉄生には強く響いた。

一瞬だけ呆然とするも、ソファに座っていた好誠の脚にすがりつく。


「なぁ頭!何故だと思います!?喧嘩した訳じゃねぇし、何も思い浮かばないんすよ!!」

「無自覚に傷つけちまったんじゃねぇのか?まぁ、強い子だからちょっとじゃ凹まねぇが…」


わーぎゃーと喚き声が聞こえる中、将太はふと思う。


「そう云や玄場さんは?」

「さっき携帯で誰かと連絡とってた。迎えに行くとか言ってたぜ?」

「……迎え?」


カランコロン


「今日は!久しぶり!」

「………」

「名無子!?」


ブライアンに入ってきたのは私服の名無子と玄場だった。

今話題になっていた子と、先程までいた人物。

清広と将太は2人で納得した。


「さっきの電話、名無子ちゃんからだったんすね」

「あぁ。鉄生がいるかどうか聞かれてな…近くだったから迎えに行ったんだ」


3人が呑気に話している中、鉄生と名無子は何だか変な雰囲気になっていた。

それを黙々と珈琲片手に傍聴する好誠と何だか息苦しいのか、眉をひそめる源次。


「…何で、ここんとこ連絡つかなかったんだ?」
「何でって…お菓子作る練習してた…今日、バレンタインだから…」

「それだけか?」

「うん。頑張って作ったんだ…料理とかしたことなかったから…」


そう言いながら名無子は、鞄から赤いリボンで結ばれた緑色の袋を取り出した。

気まずそうに、顔を伏せて両手でそれを鉄生に差し出す。


「はい……好きだよ、鉄生」

「おっおう!あっありがとよっ///」

「うっわ!熱いな畜生ぉ!!」

「(よく見るとクリスマスカラー…)」


普段物事を平然と言う名無子が、これほどとなく照れている。

それほど心を込めていると云う事だ。

そんな彼女がとても可愛くて、鉄生含め皆一瞬で心が癒された。


「あぁあっ!!いいよな鉄生は!名無子ちゃんがいてよっ」


もう好きにしてくれ状態の源次に、鉄生はニコニコして近づく。

そして、名無子から貰ったお菓子をこれ見よがしに向けた。


「まっ、源兄も名無子ほどとはいかなくても、可愛い子見つかるといいっすね」

「その手に持ってるもん渡せ。粉々にしてやる」

ジリジリと、互いの周囲に妙な空間ができる。

それは放って置いてと云うように、好誠は先程から気になる事があった。

名無子は肩に掛ける鞄と、少し大きめの袋を持っていた。

膨らみから見て、かさばる物だろうか。

そんな事を考えていると、名無子は気がついたように言った。


「あ!私、皆の分も作ってきたよ!!」

「え……」

「よっしゃぁぁ!!!」


大きめの袋から出した物は、鉄生と似たラッピングの物。

名無子は次々に武装メンバーに渡してゆく。

受け取った者は、少し照れくさそうに礼を言った。



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