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□カタチ
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「…なぁ、名無子」

「ん?なぁに?」


ガサッと鉄生は目の前に名無子が懸命に作ったと云う菓子を出す。

もう片方の腕は源次達の方に向いており、名無子は不思議に思う。


「どしたの?」

「俺はお前の彼氏だよな?」

「うん」

「じゃあ何であいつらと大して違わねーんだよっ!!」

「………」


何を必死になっているんだ、こいつ。

と、皆は変な者を見るように鉄生へ向けた。


「わかってないね!鉄生!!」

「な、何だよ?」

「よく見て!!」


バッと、名無子は人差し指を近くにいた清広の物に向け、その隣に鉄生のを並べた。

そしてとても真剣な表情で鉄生に問う。


「皆のリボンは何色?」

「黄色…」

「鉄生のは?」

「…赤」


まさか、まさかまさかと、武装メンバーは各々先が読めてきた。

それで鉄生が納得するとは思わないが、真剣に話す名無子に悪いのでその場で見守る事しかできない。

次に名無子は鉄生のと清広のを彼の顔近くに持っていく。

よく見ると緑色の袋は中が透けていて、クッキーらしき菓子が入っていた。


「鉄生、皆のクッキーの数は?」

「…6枚」

「鉄生のは?」

「……10、枚…」


だんだん鉄生が可哀想になってきた…。

皆の心が一つになった。

鉄生は先程までの勢いはなく、何だか複雑そうな表情であった。

一方で名無子は満足と云う感じに、ニコニコとして清広に返した。

そして改めて


「ね?鉄生のは特別なんだよ」


鉄生に渡した。

だが、勿論鉄生は納得いかず…。


「その言葉はすげぇ嬉しいけどよ…何かもっとこう、手の込んだやつじゃねぇか?普通は…」

「な、なんだって!?鉄生は私が料理苦手なのを知っての上で言ってるの!?クッキー作るのに何回失敗したと思ってるの!?」

「何で何回も失敗できるんだよ!」

「あいつとは相性が悪いの!」

「電子レンジと!?」


兎にも角にも、一件落着と云う形になった。

だが、まだ2人は料理について討論している。

取り敢えず落ち着かせるべく、我らがお山が動いた。


「まぁいいじゃねぇか鉄生。物が周りと同じでも、名無子ちゃんの気持ちはお前だけだろ」


流石頭と云うべきか、素敵な事を仰る。

その言葉が響いたのか、鉄生の動きが止まった。


「まぁ、そりゃそうっすね…」

「そうだよ鉄生!それには私の愛が詰まってるんだよ!」

「お前の愛は他の奴と4枚の差しかねぇのか」

「いいじゃねぇか鉄生!!羨ましいぜ!4枚も多くてよ!!」

「ただ単に余りが出たとかじゃねぇのか?」

「何だとこの蟹野郎!!」

「んだよお前ぇは!!」


日常茶飯事である鉄生と清広の取っ組み合いが始まった。

武装メンバーはもう落ち着かせるとかどうでもよくなり、各々2人を観戦している。

名無子も、好誠の隣に座り微笑んでいる。


「まぁでも、まだこう云うのが貰えるとはな…」

「私、皆さんの事が好きだから!」

「ハハ、嬉しいな。でもよ、いいのか?拗ねてるぜ?」


好誠の言葉に、名無子は少し考えた。

そして、飛びっきりの笑顔で


「鉄生は"好き"じゃなくて"愛してる"んだよ!」

「っ!!」


皆が名無子らしいなと口々に言っている中、鉄生の動きが止まる。

そしてお互い見合う形になると、また名無子はニコッと笑う。


「………行くぞ」

「え?」


名無子の元に近づいてくるやいなや、手を取った。

そしてズンズンとドアに向かってゆく。

慌てて荷物を持ち、後ろを歩きながら振り返る。


「では皆さん、よいバレンタインを!!」


バタン


嵐のような2人であった。

2人が去った後も武装メンバーはニヤニヤと笑みを浮かべ、清広は『今回は負けた』などと呟く。

一方、鉄生達は…


「どうしたの鉄生」

「黙ってついて来い!」


何をそんなカッカしているんだい?鉄生。

まぁ、分からないわけじゃない。

君がそんなウブだったとはね。

耳まで赤いのは黙っておこう。

名無子はまた微笑んだ。
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