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□重要なことは最後にて
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思った以上に蹴り上げた脚は高く、首を狙ったつもりが見事相手の顔に当たった。
それだけでも効いたらしく、ぐらりと倒れそうなところを留めとばかりに手の腹部分で相手の顎を打つ。
すると意識を失ったように倒れた。

「…もういい?」

目の前には3人の男。
1人は今気を失っている者、あとの2人はお腹を押さえて地面にうずくまっている。
初めは人数的に戸惑ったが、個々の強さはそれ程でもなく文字通りやってのけた。
とはいえなんともシュールな光景。
男3人が女1人を襲う…恥ずかしくないのか。
3人ともそれ以上何もしてこなかったのであたしは広場を後にし、出口へ向かった。

パチパチパチ

出口に差し掛かったところ、拍手が聞こえた。
音のした方に向くと、木に寄りかかっている男がいた。
金髪リーゼント、左頬から顎にかけての大きな傷。
さっきの奴らの仲間だろうかと思ったが、どちらかというと傍観者のようだ。

…何拍手してんだよ…どっか行け。
女が男に勝ったから珍しいって?よくやったなって?
ギロリと睨み付けるも、男は全く動じなかった。更にムカつく。
拍手をやめると男は腕を組んだ。

「強いんだな、驚いた」
「……」
「俺は世良直樹、あんたは?」
「……」
「名前くらい教えてくれたっていいだろ?」

男の発言を無視し、広場を出た。
やめろ、あたしに構うな。

今日は次から次へとなんなんだ。
中学の後輩が不良に絡まれて怪我したからその不良に喝を入れたらさっきの3人連れてこられて今度はあいつか!
そういえば喧嘩してる最中にあの不良逃げたな…でもこれで懲りただろ。

「…何」

足音が多いかと思ったらさっきの世良とかいう男が追ってきていた。
振り返ってみるとほら、優雅にポケットなんかに手を入れて、あたしが歩のをやめると男も止まった。
世良はやっと止まってくれたみたいな顔して、あたしが動かないのをいいことに歩み寄る。

「名前、聞いてないから」
「あんたが勝手に言ったんじゃん…教える気ないし」
「冷てぇなぁ…呼ぶ時困る」
「もう会わないし、遭いたくない」

なんなのこいつ。
思わず走り出した。
足には自信がある。小学校からよく体育祭でリレーの選手に選ばれるくらいに。
走りながらこっそり後ろを見ると、世良は流石に走ってでも聞き出す気はなかったらしく、その場に立ったままだった。
ただ、その時の顔が楽しそうな表情だったので、走ったあたしが馬鹿みたいじゃんと思った。
この男とはもうこれっきり遭うことなんてない。あたしはスピードを緩めることなくそのまま家に向かった。

*

「は?」
「よう」

あたしの人生の思い出の中で、そういえばこんな変な奴いたかもという程、薄れた記憶になる奴だと思った。
一度会ったら忘れないカテゴリに決して含まれない程薄い薄い存在に。

まさか通学路に現れるなんて思いもよらず、一度止まってそうだ無視しようと素通りしたが男は寄り添うようについてきた。

「その制服でこの道、やっぱO学か」
「だから何?」
「なんとなく」

口端をあげ、笑う。
何がそんなに可笑しいんだよ!
先日のように睨んでみても、こいつには効かない。

「そんな顔すんなよ、せっかくの整った顔が勿体ないぞ」
「は…」

やばい、こいつ喧嘩絡みかと思ったら新手のナンパか?
たらし…一番嫌いなタイプだ。
落ち着いた雰囲気かと思いきや…そういう策だったとはな。
嗚呼制服で喧嘩するんじゃなかった…不良達の世界ではどの学校の制服なんてお見通しだ…。
明日からこの道は通らないことにしよう…せっかく学校からの近道だったのに。

「なぁ教えてくれよ、名前」
「やだ」

こっちは速足で歩いてるのに、世良の歩調は変わらない。脚長いなおい。

「あんたの事知りたいんだよ」
「なんで」
「興味あるから」

…何だよ、それ。
あたしに興味?それはやっぱり女が男3人との喧嘩に勝ったから?
世良の顔を凝視する。
傷に目がいってたけど、顔はいいんだな…。
じっくり見ていると、世良はまたフ、と笑った。
不覚にも、かっこいいと思ってしまう。

「そんなに見つめられると照れるな」
「!」

また前に視線を戻し、世良から死角になるよう片手で前髪をいじるような仕草をした。
よくサラッとそんな事が言えたもんだ。
見つめてない、見つめてなんかない。
こいつがそんな事を言うもんだから、だんだんとあたしの頬に熱がおびる。

「も、もうあたしに関わるな!しつこいんだよ!」

少し歩く速度を上げる。
いっそのことまた先日のように走りでもしようか。
とりあえず撒こうという気持ちが強く周りをよく見ていなかった。
不意に腕を引っ張られた。
油断していたから踏ん張る事もできず、そのまま世良の腕に閉じ込められた。
「何するんだ!」と言おうとした瞬間トラックが物凄いスピードで通り過ぎた。
狭い道だったため、スレスレの距離に鳥肌が立つ。

あ…危なかった…。
もしかしたら跳ねられていたかもしれない。
世良は後ろからしっかりとあたしの両肩を包むように引き寄せ、守ってくれた。
…これには、一応礼を言おう。

体勢を直そうと前に体重をかけて離してくれアピールをするが、尚も世良の腕はそのまま。
なんだ、どうしたと顔を上げ様子を伺う。

「あんた…良い匂いするな」

こいつは危ない。

「嗅ぐな!離せ!」
「助けてやったのに」
「それには礼を言う!ありがとう!じゃあな!」

勢いよくしゃがみ、スポっと腕の中から抜け出した。
またチラリと見ると…な、んで笑ってるんだ!
この男といると、何かわけわかんないけど調子が狂う。
そうやって、また逃げるように全速力で走った。
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