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□重要なことは最後にて
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「その人河二の世良だよ!」
「へぇ…河二なんだ」
「そこじゃない!」

昼休み、ミルクティを飲みながら親友のカヨに最近現れた不審者の話をした。
そしたらなんとカヨは世良の学校を知っているようで、と云う事はあの男がそこそこ有名な奴なのだと知った。
あたしの通うこの学校は周りの喧嘩っ早い学校に比べると極々普通。
その中で所謂不良というレッテルを貼られているのはほんの一部程度。
今目の前にいる小学校から一緒の親友、カヨは不良達の抗争が好きらしく色々と知っている。

「てか、河二って結構近いんじゃない?まぁでもこの辺だと使う駅は北町第三しかないし、通学路一緒は珍しくないよ」
「情報屋になれるね…」
「そんなことより!河二の大将に目付けられてるって何!?何したの!?」
「話した通りだよ…」
「名無子にもついに春が…」
「待って、そんな要素何処にもないでしょ」

のほほんとお弁当を頬張るカヨはなんとも呑気。
本当に、何で目を付けられてしまったのだろうか…
ここ最近あいつの笑った顔が頭から離れないのだ。

「名無子、恋というものを知っているかい?」
「やめてください…」
「だって名無子のこと待ってたんでしょ?会いたかったんだよ。今度あったら名前教えてあげれば?」
「でも…」
「河二の頭に目を付けられてるってマジレスした方がいい?」
「違う意味でドキドキしてきた」

*

今日あの道に行ったら世良はいなかった。
あの日だけなのかもしれない。飽きたのかも。
別に期待していたわけではないんだ。
カヨに言われた通り、今度会ったら名前教えてやろうかなぁなんて…

それにしても河二の頭に2回もよく逃げれたなとあの時の自分に感心する。
学校の頭が1人で他校に関わるのはこの街では非常にデリケートな事だ。
でもあたしの学校は平和だから問題ないか…これも別に心配しているわけでは…

「おい」

後ろから聞いた事のない声。
振り返ると大柄の男。
気づかなかった…

「俺の後輩をずいぶんと可愛がってくれたようだな」

男の後ろから、チラリと先日の逃げた不良が覗いた。
女1人にずいぶん凄い助っ人連れてきたじゃないか…
どうしようかと考える隙もなく、風を切るように男は殴りかかってきた。
ギリギリ避けることができ、その勢いのまま全速力で逃げる。
無理だって!あんな大柄の男ちょっと他の女子より喧嘩できるからって無理だって!
撒こう!あたしの足なら大丈夫。そう思っていたんだ。

「!」

突然真横から腕が飛び出し、走っていたあたしの首にひっかかる。
ラリアットのような形になり、勢いよく地面に叩きつけられる。
背中が痛い、首も痛い。
走ってきたことで喉がカラカラ…ヒュヒュと声にならない音が口から漏れる。
動けずにそのまま青天になっていると太陽を数人に遮られた。
逆行になっていて顔はわからないが、こいつらも助っ人だろう。

「よう、この前はどうも」

あの3人も入ってるのか…全部で5、6人くらい…これはキツい。
1人が手を伸ばし、あたしを掴もうとする。
なんとか立ち上がって…此処から逃げなきゃ。
掴まれる前に適当に誰かのスネを思い切り蹴った。
痛みで後ろに下がったことで道が開け、すぐさまそこから脱出を図る。

「調子にのんな!」
「うぁっ」

しかしそれも叶わず頬に衝撃が走る。
また地面に倒れ、男が胸倉を掴んであたしの体を少し起こす。
なんとか剥がそうと男の手を両手で掴むもびくともしない。
喧嘩する時は相手の攻撃避けてその隙にっていうのがいつものやり方。
力勝負は結局のところ、男女の差が勝敗を決める。

「オラッ!」
「ぶぁっ」

もう一発、痛い。
口の中が鉄の味で苦い。
周りの男達はニタニタと笑っている。気持ち悪い。
頬がとても痛いんだ…もう目を開けるのも苦しい…
ゆっくりと目を閉じた。
これからどうしよう、こんな状況どうしようもないわ。

「うわ!」
「な、なにっぐぁ!」

暗闇の中、先程と様子が違ってきた。
男達の焦る声、倒れるような音。
すると胸倉を掴まれる感覚がなくなった。
地面に背中がつきそうになったところで受け止められる。

「おい!」

聞いた事がある…うっとおしいと思った声…
目を開けると世良がいた。
しっかりとあたしを腕で支えてくれていた。

「なん、で…」

殴られた事で口端が切れてしまったのか、口を開くととても痛かった。
そうか、この道通学路だもんな…おかげで助かった…
お礼を言おうにも喋るのがつらいので、目を細めて口をにんまりとさせた。あたしとしては笑ってるつもり。
「もう大丈夫だ」そう言って、世良はあたしをきつく抱きしめた。
グッグと両手で離れようと世良の胸を押すが、逆に締める力が強まる。

「く、苦っしい…」
「じっとしとけ」

なんだと思ったら宙に浮いた感覚。
世良はあたしを横抱きにし、そのまま歩き出す。
その際周りを見渡したら6人もいた男達が倒れていた。
中にはあの大柄の男もいて、本当に世良は頭を張るだけの力があるんだと確信する。

「何処っに…」
「病院に決まってるだろ」
「い、いいよ…悪い」

一向に降ろしてはくれないし、何を言っても聞いてくれない。
いつものあたしなら、降ろせと叫びながら暴れるんだろうけど、今は疲れてしまって只々世良に大人しく運ばれた。

*

女の子の顔になってこと…!

この新田病院というところは、嫌な顔一つせず街の怪我した不良を受け入れてくれる。
被害者から加害者…様々だが、あたしの顔を見た看護士さんの顔はまるで鬼の形相そのものだった。
治療費は後日で構わないと言ってくれて、安静にと念をおされた。
ロビーに行くと、目立つ金髪がいた。

「世良」

呼ぶとすぐ顔を上げ、立ち上がる。
さっきから世良の顔は無表情だ…にやけた顔しか見てないからそれが違和感だった。
お互い無言のまま歩きだし、病院を出た。

病院を出てしばらく歩いたところで、なんとなく世良のシャツを掴んだ。
小さな声で「ありがと」と言えば優しく頭を撫でられた。

「もう少し、早く助けたかった」
「あんたのせいじゃないし」
「…付け回したりして悪かった」
「…ち…わ…」
「ん?」

気持ち悪い。
いつもの余裕のあるあの顔はどうしたんだ。
何でそんな、本当に悲しそうな目をしてんのよ。

ハッキリそう言えば、初めて見る世良の驚いた表情。

「あんたのせいで頭からにやけた顔が抜けないんだよ。付け回して悪かった?ほんとだよ、ここ最近あんたのことばっか考えて…ほんと…もう、謝るんだったら最初っから近づかないで」

自分でも何を言ってるかわからない。
実にあたしらしからぬ事を言ってるのは間違いないけど。

「!」
「そうか、頭から俺が離れねぇか。この先俺がいないとダメか」
「そ、そこまで言ってない!」

突然抱きしめられる。
世良はあたしの方に顔を埋めててどんな顔をしているのか見れないが、間違いなくいつものにやけた顔だろうと少し安心した。

「一目惚れだ。あんたの鋭い目に惹かれた」
「…世良直樹はクールな奴って聞いた」
「知ってる奴はあんただけでいいよ」

世良という人物を知ってる人がこの光景を見たらどう思うか。
自惚れるけど、なんだろうこのデレデレは。
恐る恐る抱きしめ返すと、世良の力が強まった。
少し苦しいけど、別に嫌ではなかった。

「なぁ、名前、教えてくれねぇか?」

嗚呼そう云えば。

「名無子。名無氏名無子…」
「名無子」
「何、直樹」

今更の自己紹介にクスリと互いに笑った。
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