牢獄

□投獄
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その街は荒れていた。もちろんなぜ荒れていたのかは知っている。ほんの数年前まで隣国との戦争が十数年にわたり続いていたからだ。2057年に南アフリカから独立したこの国は北部南アフリカ共和国とややこしい国名になった。それからすぐ戦争は始まり年月が過ぎいまに至った。
私は以前からフリーのカメラマンとして各地を飛び回っている。一昨年創刊した"戦争を否定する写真集"を日本で知らない人はいないだろう。そして私はこの国にカメラマンとして数ヶ月住み込み、この国の現状をフィルムに収めることにしたわけだ。
この国は良い国だ。決して日本より物価が安いからとかいう理由ではない。人々はこんな国なんかそうそう来ない"言葉の通じないアジア人"を心暖かく迎え入れてくれた。実際、長期滞在における宿泊も、食べ物も、ぜんぜん困らなかった。言葉の壁も無かった。

拉致とはなんと唐突なことで、私はいまどこにいるかわからない。わかる術がない。その国にいるのか、地上なのか地下なのかさえも。なぜ私がこのような白熱電球一つの、狭くて薄ら寒い、見える壁一面コンクリートの、まるで牢獄のようなこの空間にいるのか理解できなかった。あるのは毛布一枚と赤ん坊が使うようなおまる一つ
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