牢獄

□転機
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いうまでもないがここに来てから何日経ったのかわからなくなっている。
寝るか食べるかしかないので、体内の時間軸も歪んできてしまった。

最近、不可解なことが立て続けに2回起こった。
まず、ある時起きたらすぐ食事が運ばれてきた。いつもと同じ何の変哲もないパンなのだが、トレイにA4程度の白い紙が4つに折り畳まれて乗っていたのだ。
私は不思議がっていたが、女は少し上機嫌だった。それをみた私は女に「これは何だろう」と少し期待して聞いた。すると女は「私は前の牢獄にいるときにこの紙が2回来たことがあってね、一回目は1ヶ月前くらいだったかしら…その時の体調のことを詳しく調べられたの。気分や便の事から生理のことまで。アンケート用紙みたくなってて、私はそれに空欄無く書いて提出したわ。そしたらそれから10回目くらいになる食事のトレイに新しい紙が同じようにして乗ってたの。それはあなたのいる牢獄に移動する通知だったの。それですぐに覆面の人たちが3人銃を持ってやってきて、ここに連れてこられたの。」とこの紙のあらましについて説明してくれた。
私はパンに手を伸ばすより先にその白い紙を手に取り、おそるおそる開いてみた。するとそこにはこう書かれていた。
『この牢獄にいる横井・樹理を別牢獄に移動させる。』と。
この文は日本語で書いてあった。
私の名前は横井というのはまだ女に話していなかった。そして私もこの女の名前を知らなかった。なぜだか『あなた』『君』と呼び合っていたからだが、いままでなんの違和感無くそれで過ごせていた。名前なんて頭の片隅にも思い浮かばなかった。
私は「そういえば、私の名前は横井といいます。」と女にさりげなく告げると、「私は樹里です。…なんか、変ですね」と笑って答えてくれた。私たちは笑顔で、これからどういう牢獄に移動になるのか期待を膨らませて話しながら、パンを食べた。
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