牢獄

□探索
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分担して探すよりは一部分を二人で重点的に探索する方が効率が良いと話し合って、私たちはまず玄関から調べた。
初めに私たちがこの部屋に入ったドアには、外側から厳重に鍵が掛けられていて、内側からではとても開けることが出来なくなっている。ここには壁にも床にも目立った不思議はなく、私たちは落ち着いた。そんな簡単におかしなところが見つかるなら前の牢獄時代にもっと早くボロが出ていたはずだ。
次は玄関入って左のバスルームだ。樹理には風呂を調べさせた。日本じゃ汚れ役は男がかって出るものだと、私は古くからの理念にとらわれていた。もちろん育ちから信念や理念が構築されていくわけだが、私は世界を飛び回るフリーのカメラマンを生業としているため、日本人としての誇りや自覚を忘れてしまわないために、敢えて日本男児を気取るようにしてきた。それが癖になり、知らない間に私の性格の一部になっていたのだ。
そんな私の性格に樹理は感心を示していた。
バスルームには特に異常は見あたらなかった。…見あたらなかったのである。それは樹理が言った一言だった。「これって換気扇よね。…なら、外に通じているはずじゃない?」
私は換気扇の蓋を開けた。
とくに頑丈に出来ているわけではない。いまこの私の呼吸している息の混じった空気が、何処だかの地上もしくは厚い壁の向こうに出るのなら、声が届くかもしれない。煙を送り出せば事件を公に出来るかもしれない。いろいろな期待が頭をひしめき、考えを交錯させる。樹理に「ここから脱出しよう。」と弾んだ声で持ちかけると、樹理の表情は曇った。「相手がかなりの知能犯の場合、私たちの命がないわよ。こんなあからさまなのはまるで罠だと察しがつくわよ。」と思いもよらない一言に、私の期待は少しばかりのため息と絶望感に変化した。
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