牢獄

□決意
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前に"不可解なことが立て続けに2回起こった"と述べたが、一つはあのお引っ越しのことである。
さて、ここからはもう一つの"不可解な出来事"を記述するとしよう。


私たちは新住居の探索を3日で完了させ、自分達の住まいを確保したのだが、その翌朝に一人女が訪ねてきたのである。言うまでもないがここは厳重に管理されていて家の中から外に出るのは不可能であり、まして自由に家どうしを往来するなど神の偉業と言っても過言ではないこの環境に、突然のこの来訪者は私たちの度肝を抜いた。
それは午後2時くらいだった。いきなりドアが鳴る音が聞こえた。私と樹理は顔を見合わせて玄関へ向かう。冷蔵庫の補充か?また別の家へ移動なのか。様々な憶測の中ドアを神妙深げに見つめた。するとドアがゆっくり開いた。樹理は怖かったのか、驚いた素振りを見せ私の右腕をつかんだ。私も内心あまりに怯えていたため、右足を一歩後退させ樹理の右肩を抱いた。ドアが可動範囲内の半分も開かないうちにその女は顔をのぞき込ませてきた。私は正直な気持ち見とれてしまった。私のすぐ腕の中には樹理がいるのに、その艶美な欧米風の白人に鼓動が早くなった。彼女は入ってくるやいなや「心配しないで下さい…。
私はFBI巡査官のカンナです。この施設の捜査に…―」と言ったきり倒れ込んでしまった。樹理は少しその怪しげな姿に凝視していたが、私は樹理の手を静かに優しく解いてうつ伏せの"カンナ"と名乗る女性を抱き上げ寝室に運んだ。樹理は半開きのいかにも無防備なドアをきちんと閉めて寝室に入ってきた。
「この刑事さんは何しに来たんだろうね。」と樹理に聞くと、「この施設の捜査に来たんだと思う。」とまともな意見を返してきた。
「潜入捜査って…ヤツか。」と独り言のようにぼやき、FBI捜査官の顔を見る。ひどく 疲れているようだ。黒のタイトなスーツを身にまとっていて、ジャケットのはだけたベルト付近に目をやるとそこには拳銃がささっていた。
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