牢獄

□計画
1ページ/6ページ

時刻は6時少し過ぎたころ。
つまり朝になる。
とはいっても、それは私たちが決めた一日の基準に乗っ取ってのことだ。
あっているかすら分からない時計を軸に生活が回転している私たちにとって、現在は朝なのである。

目覚ましがあるわけでも、ましてや外から鳥のさえずりが聞こえるわけでもないのに、カンナは寝室から出てきた。
体内時計が正確なのかと少し笑ってしまった。
しばらく前から手を握りあってたわいもない会話をしていた私たちは、カンナが出てきたことによって時計を見た。
樹理は朝食を作ると言って席を立ち、私は風呂にでも入るかと席を立った。
それを見ながらカンナはトイレに入った。
初めて訪れる三人での朝は、いつもと変わらぬ日常的な雰囲気に満ち満ちているようだ。


私が風呂から上がると、机の上には同じ皿に載った目玉焼きとパンがコーンポタージュと隣り合わせに揃っていた。
そして樹理の方を見ると、私が書き上げた十数枚の紙束をひらひらと見せつけるように振っていた。
口で言わずとも、「これはどうするの?」と聞いているようだ。
私は躊躇無く「捨てておいてくれ。」と言ったが、カンナがそれを割って入った。
「捨てる前に見せてくれない?」
「いいけど、大したこと書いてないぞ。」
私があきれた風に笑って答えると、カンナは樹理から紙束を受け取った。
そしてまじまじと食い入るように見ていき、途中途中で微笑んだり目を見張ったりしていた。
それを見た私は、まあ無表情で真剣に読まれるよりはましか、と胸中でつぶやき席に座った。
樹里も座ったが、カンナは一向に気にしない様子で紙に目を通す。
書いた本人としてはこの様に見られていてもさほど気にしないが、樹理はかなり気になってきているらしい、そんな表情をしている。
そして私に目で訴えかけてきた。
なにが書いてあるのか、と。
素早くそれを察知した私は、熱いコーンポタージュをすすりながら、
「施設に入ってからのことを全部書き留めたんだよ。」
と言って安心感を誘ってやった。
しかし樹理の表情はよりいっそう険しくなり、早口に
「お風呂とかのことも書いちゃったの?」
と聞いてきた。
うなずくと樹理は赤面しうつむき、唇をとがらせて「後で私も見る。」とカンナにうながした。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ