牢獄

□投獄
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飯は100円で買えるようなパンが一日に3個食べられれば良い方だった。
いまは昼なのだろうか…。自分のことはニュースになって世界中に私の名が飛び交っているのだろうか…。つまらない想像とくだらない妄想が私の頭の中を渦巻いている。
『ガチャ』いつも飯が与えられるときに鳴る音だ。この時間が僕には嬉しい。いつものように牢の重い扉がガコッと開くとそこには、女がいた。女は何の疑問もないようにためらいなく私に与えられた地獄に入ってくる。戸が閉まる。同時に何とも言えない気まずさがこの空間に立ちこめる。女は何も言わずに座る。私は飯を分け女に半分やる。女はそれを見て私を見てからまた視線を戻し、パンに手を伸ばす。二人がパンを食べる音がピチャピチャと気まずい空間に響く。その音を聞きながら私はまたいっそう気まずくなる。女は一言『ありがとう』とつぶやく。私に言ったのだろうか。私は声が出なかった。
時間が風のように経過する。部屋の隅には溜まった皿。それと女。私は尿意でトイレに手を伸ばしたが、流石に若い女性の目の前。容易ではない。私は始めて声をかける。これほどまでに女性に対して緊張したことがあっただろうか。『用…たしてもいいですか』。『どうぞ。』
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