牢獄

□計画
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樹理は紙を折り畳んで机の端にそっと置いた。
内容が気にさわったかと、少し不安げに見つめていた私をよそに、食事に手をつける樹理は無表情に近かった。
私は苦笑しながら、ちらちら樹理を見つつパンをちぎっては食べた。
横からそれを楽しむような視線を感じたが、それは無視しておくことにした。
「うん。おいしい。」
そうつぶやく樹理はこの空気をどうするのだろう。
私の不安がそのまま災いに転じるか、いらない心配になるかは、すべて樹理の一言一言にかかっている。
これで樹理が気を損ねるようなことがあれば、私はこの施設から脱出する決意をしたことを話す機会も損なわれることになる。
私の頭にある記憶をいまさら書き出さなければよかった、という後悔は先にたたなかった。



食後、各々気ままに過ごしている。
私は寝室でうとうとしていたのだが、隣室からは女同士の楽しげな会話が聞こえてくる。
ここまで私の耳に入ってくるのならば、昨晩の樹理との会話はカンナにも聞こえていたのではないかと思えてくる。
それならそれで話は早いと思いつつ、やはりしっかり意志を伝える行動はとっておきたい。
私はタイミングを図ろうとしていたのかもしれない。いつまでも慣れないことだ。
すると彼女たちの口から、しばしば「施設」という単語がでていることに気がついた。
耳を澄ますと、どうやらカンナがこの施設の内部構造を詳しく説明しているらしい。
実際私も興味のあることだ。連れてこられるときに見た情景だけでは、大きな施設の中身を知ったとはとても言えない。
寝室を出ると、二人は私を見た。
そして樹理が、
「興味あるでしょ?そんな顔してる。」
と、少し笑って言った。
「もちろん。ぜひ私にも話して欲しい。」
私は樹理の隣に腰掛けると、カンナにはそれがスタートの合図だったかのように、続きを話し始めた。
隣に目をやると、そこにはいつにもまして真剣な横顔があった。
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