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声をかけて来た女、斎藤は、長い黒髪を一纏めに結い、黒縁の眼鏡をしている。
黒い服に真っ赤な口紅だけが異様に目立っていた


「なつみさん…『ご用件は?』

「用件だなんて…まるで用がなければ話しかけちゃいけないみたいだわ」

『そう聞こえたならすみません。用がない限り、私に近づくのもお嫌かと思ったので』

にっこりと笑うと、相手もそれに負けじと笑い返す。
ああ、健の側を離れたのは失敗だった


「…先生…お祖父様がとても心配しておいでよ。大学を休学なさってるのですって?」

『ええ。最近少し心労が溜まっていて』

「それはいけないわ。お父様を亡くされて悲しいのね。そういう時は是非、血の繋がった家族と一緒にいるべきだわ」

眼鏡の奥で斎藤の目が光る。
どうやら、私を連れて来いと命令されたようだ


「今は先生もお忙しいけど、きっとなつみさんの力になってくださるわ」

『……』


斎藤の手が私の肩に伸ばされた時、目の前にここ三日間でよく知った背中が現れた

「なっ…!?」

「……」

突然現れた風魔に驚き、数歩後ずさる斎藤。
その肩にポンと手が置かれた

「こんにちは斎藤さん。なつみ、これから行くとこあるんで失礼しま〜す」
 
「…健っ!」


斎藤の声も気にせず、さあさあと私と風魔の背を押す。
車を走らせてしばらく経ったところで、ようやく健が口を開いた


「…で?なんだって?」

『……「お祖父様がとても心配しておいでよ」って』

斎藤の真似をしながら言うと、健がプッと吹き出した


『似てたっしょ?』

「マジで。細かすぎて伝わらない物まねに出ろよ」

肩を震わせて運転する健と笑い合っていると、風魔がチョンチョンと袖を引っ張った


『大丈夫。何も気にしなくていいよ』

「……」


風魔はジッとこちらを見ているだけで、頷きも、首を振りもしない。
それに苦笑を漏らし、同じようにこちらを見ている野猿を手に乗せて、家に着くまで遊んでいた


ツヅク

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