Novel

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 空はくすんで大粒の雨を降らせている。あぁ、こりゃ暫くやまねぇな、と、おそらく同じ宿に泊まるのであろう男が言った。

 ここはとある山中にある二階建ての小さな宿屋。苔が所々に生えた古い瓦に雨粒が当たり、軽快な音色を立てている、その下。ぽぉ、と窓から空を見上げていた薬売りは、男の言葉に、そうですねぇ…と短く返した。
 薬売りや先程の男の他に、あと八人程度泊まっているようだった。この宿屋は前記のとおり山中にあるため、周りに建物がなく、本当に静かだった。しかし、宿屋の女将は腕っ節も強そうな豪快な性格の女性のようで、そのためか不思議と寂れた感じではなかった。それに街道沿いにあるため、旅人がよく利用するらしく、儲けはそれなりにあるようだった。
 女将が買っていった薬は、売っている商品の中ではわりと高い品であった。

「今日は大分繁盛してるな、女将さんよ」

 先程の男が、店の奥から出てきた女将に手を挙げながら話しかけた。

「そうだねぇ。今日はそこの薬売りの旦那で満室だよ。ありがたいねぇ」
「お、そうだったのかい。旦那もよかったなぁ。ここ以外で宿屋といったら、来た道を戻るか、次の街を目指すか…だからな。こんな雨の中歩くとなっちゃあ最悪だぜ」
「えぇ…本当に、助かりました」

 窓から女将と男に視線を向け、目を少し細め微笑んで見せた。僅かな表情の変化だったが、ただでさえ美麗な面のため、二人は一瞬惚けてしまった。
 
 雨音はさらに激しさを増し、ひんやりとした空気が足下を漂う。今晩は冷えそうだねぇ、と女将が呟いた。


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