Novel

□表街道驀進物語。
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 薬売りははっきりいってすごくモテる。それこそ両若男女問わずといった風で、すれ違い様振り返る者もいれば、時に一緒に並んで歩いているこちらを恨めしそうな眼差しで睨んでくる者もいる。

(まぁ、そりゃあ仕方ないか)

 小田島は今日何度目かになるため息をついた。

「…どうされました?小田島様」

 今小田島の悩みの元を作っている張本人、薬売りはそっと覗き込んできた。

「いや…腹が減ったな、と思ってな」
「確かに…どこか良い店探してみましょうか」

 訝しがる素振りもなく、薬売りは辺りを見回しだした。小田島は心内を知られたくなくて咄嗟に言ったことだったが、薬売りが訝しがることも無かったのでそのまま話題を今日の昼食の話にもっていった。

****************

「空いていて、良かったですね」
「そうだな」

 薬売りと小田島は蕎麦屋に入っていた。昼時を少し過ぎたころだったので丁度空いていて客も少なかった。小田島は少し安心する。こういった飯屋では否応にも注目が集まってくるのが分かってしまうからである。

「ご注文はお決まりですか?」
「ん?そうだなぁ…」

 小さな桃色の簪を付けた娘が暖かい茶を持ってきてくれた。にこにこ愛想良く微笑む姿がとても可愛らしい娘であった。

「蕎麦二つ」
「ありがとうございます」
 注文を聞くとぱたぱたと店の奥の方へ言ってしまった。その後ろ姿を分けもなくただぼぉ、と見ていた小田島であったが、何やら視線が痛い。ゆっくりと視線を戻すと、じっとこちらを見つめる薬売りと目が合った。

「…なんだ」
「いえ…。…小田島様は、あのような娘がお好みで?」

 切れ長の目がさらに細められ、何やら責められているような気分になる。どこか機嫌が悪いらしい。小田島は慌ててぶんぶんと首を左右に振り否定を表した。

「いやいや、そういうのではなくてだな」
「ほぉ…」
「ただ……元気の良い娘だと思って見ていただけだ」

 なぜか冷や汗が額にぷくぷく浮かび上がってくる。薬売りの睨むような視線のせいだ。まるで女房に浮気を勘ぐられている旦那の気分だ。

「……なるほど…」
「…なんだ。」
「小田島様があぁいうのがお好みであったとは」
「あのなぁ、別にそぉいうわけでは」

 はいはい、と何故か話をふってきた薬売りにはぐらかされてしまうはめになった。






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