短編集
□守ると決めた日
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葛西…様にアヴェンジャ様の部下になると宣言したあと,僕は彼からもう少しアヴェンジャ様について話を聞くことにした。
「なあ,葛西様」
「おま,言葉遣いおかしいだろ。敬ってんのかどうか分かんないぜ,それじゃ」
「言葉遣いは後々直していくから,とりあえず話を聞いてくれよ」
「はあ…。何だ?」
葛西様は苦笑しながらも,僕の話を聞いてくれる姿勢をとってくれた。
「葛西様は前からアヴェンジャ様と仲良いんだよな?」
「俺は仲良いと思ってるぜ」
「どうやって仲良くなったんだ?」
“そうだなあ…"と,葛西様は昔を懐かしむかのように目を細めた。
「さっきも言ったが,嬢ちゃんはここに来た時から,ずっと1人だったんだよ。毎日毎日…1人で本を読んだり,朝早くから深夜まで修行に明け暮れてたり……」
「誰もアヴェンジャ様に近付こうとしなかったのか?」
「いや,ボスは嬢ちゃんをえらく気に入っててな。もちろん側近を付けたんだが,嬢ちゃんはそれを拒否…というより完全無視を決め込んでな」
ああ……何かすごく想像できる……。
「他の奴らは知らないが,俺にはどうも…嬢ちゃんが悲鳴を上げてるように見えてよ」
「悲鳴…?」
葛西様の言っている意味が分からなくて,聞き返しながら首を傾げる。
「分かんねえか?あんなに人を遠ざけてはいるけど,本当は1人は寂しくて,怖くて。だけど人に頼りたくない…ってな」
「……………」
言われてみれば…。
確かにアヴェンジャ様は,1人で何でも抱え込んでいそうな感じだ。
まだそんなに長く一緒にいたわけじゃないけど,彼女のことを全く知らない僕でさえそう思うのだ。
葛西様の言う通り,アヴェンジャ様は本当は1人は寂しいのかもしれない。
「んで,嬢ちゃんは責任感強いからな〜。人を殺した自分が,笑って生きてちゃいけないとでも思ってんだろ。だから…俺やテラの前ですら笑わなくなった」
“そういう子なんだ"と,葛西様は悲しそうに笑った。
そんな彼を見て,この人は本当にアヴェンジャ様を大切に想っているのが分かる。
「なあ…何で葛西様は,そんなにアヴェンジャ様に構うんだ?」
僕の問いに,葛西様は僅かに目を見開いた。
だが,すぐにもとの表情に戻る。
「血族に日本人は俺と嬢ちゃんの2人だからな。仲良くしときたいと思ったんだよ」
「……本当に,それだけ?」
「……………」
葛西様は黙り込み,何か思案しているようだった。
「?」
「まあ…それだけじゃねえな。……く,…んだよ」
「え?」
最後の方が聞き取れなくて聞き返したが,答えるつもりはないのか困ったように笑うだけだった。
「なあ,俺だけじゃなくてテラにも話を聞いてみたらどうだ?あいつは馬鹿だが,血気盛んな奴らと違って,すぐに殺しにかかってくるような奴じゃないからな」
“それに"と,葛西様はニカッと笑った。
「テラはお前と同い年だ。仲良くなれるんじゃねえか?」
「そうなんだ…」
とりあえず1人でも多くの人からアヴェンジャ様の話を聞きたかった僕は,葛西様からテラという人の部屋の場所を聞き,葛西様の部屋をあとにした。
「ここか…」
こんこん,と小さくノックすると“はーい♪"とご機嫌な様子の返事が返ってきたと同時に,扉が開いた。
「ん?君って確か……」
「今日からアヴェンジャ様の部下になった,リコルだ」
僕の言葉に,テラはキョトンと不思議そうに首を傾げた。
「今日から?じゃあ,今まで君は何だったの?」
「詳しく話したいし,話を聞きたいから,部屋に入れてくれないか?」
「ああ,全然構わないよ」
“どうぞ"と,テラは満面の笑みで僕を迎え入れてくれた。
何て言うか…テラは爽やかな男だな,と思った。