月夜草子
□漆黒のドレス
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――――…
「おはようございます」
「おはようございます、キラ様」
だだっ広い食事の間に主が現れると、一斉に頭を下げる従者達。
「おはよう」
挨拶を返しつつ席に着き、少し遅めの朝食を取る。
「キラ様。ラクス様のご容態は?」
「また熱が出てきたみたいだ。消化に優しいものを作ってくれるかい?」
「畏まりました」
「ああ、あと着替えも持って行くから、一緒に用意して」
「そんな!キラ様がそのような事をなさらずとも、私共がラクス様のお世話をさせて頂きます」
「いや、ラクスが心配だし、何より僕が面倒をみたいんだ」
「キラ様」
その言葉に、近くにいた従者達が胸を振るわす。
「キラ様にそれ程想われて、ラクス様は幸せな限りですな」
「誠に」
和やかな笑いがその場を包み、キラが言葉を続ける。
「僕はラクスを大切に想っているし、単身この国に嫁いで来てくれたんだ。シーゲル王に代わって、僕はラクスを守り、愛し続けるよ―――………永遠にね」
最後の言葉が、やけに低く熱っぽく響いたが、それに気付いた者はいない。
「それと本日は、お昼頃に隣国のアスラン様がお出でになります」
「ああ、……そう言えばそうだったね」
「お食事をご用意致しますが、ラクス様の分は如何致しますか?」
「いや、無理はさせたくない。彼とラクスは昔馴染みだし、彼女が同席せずとも彼は気を悪くはしないだろう」
「畏まりました」
「時間までラクスの所にいる。何かあったら呼んで」
ナプキンで口を拭き、キラは席を立った。
「ああ、それと、僕がいない時に勝手に部屋に入らないでね。ラクスの事は心配いらないから」
「畏まりました」
「アスラン………ね」
キラの冷えた呟きは、誰に拾われる事もなかった。