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□昔話
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昔々、一つの国があったの。その国では魔法が盛んで、王室も国民も、魔法の力を借りて日々の生活を送っていた。
周りの国が戦争を繰り返す中、その国だけは平和を保ち、豊かに日々の生活を送っていたの。これは魔法のおかげでもあったけど、何より国王が慈愛に満ち、優れた人物であったからに外ならないわ。
そんなある日、一人の少年が国の皇子に拾われた。少年は十五歳、皇子はまだ八歳のときだったわ。皇子は城から抜けだし、街へ遊びに下りていたのね。
皇子に拾われた少年は、皇子と共に城で暮らすようになった。生まれたときから人の温もりを知らずに育ち、完璧に心を閉ざしていた少年。
でも彼は、皇子の優しさに触れて次第に心を開いていったわ。自ら望んで皇子に仕え、一生皇子を護り抜くと誓った。
それから十年。
国は滅んだ。
詳しいことは分からないわ。その国についての史実は何一つ残っていないんだもの。
分かっているのは、"敵"が現れ、国は戦ったという事だけ。
とにかく、国は滅んだのよ。王室は戦い、国と皇子を必死に護ろうとした。でも、駄目だった。
"敵"はなんとか倒したけれど、自らも戦いに赴いた皇子は死んだ。皇子に仕える人間も死んだ。
…唯一、十年前皇子に拾われた少年を除いて。
少年…そのときにはもう立派な大人になっていたから、男といった方が正しいわね。男は死ぬ間際の皇子に、魔力の全てを託されたの。再び"敵"が現れたときのためにね。
その時から、男は魔力によって老いなくなった。不老不死の体になってしまったのよ。
その国では"生まれ変わり"が信じられていてね。代々の国王は、生まれ変わってまた王になると信じられていたのよ。
だから男は、皇子を探した。国が滅んでしまった以上、死んだ皇子がどうなるのかは分からなかったから。
それにはっきり言ってしまえば、男は国の事なんてどうでもよかったの。ただ生涯仕えると決めた皇子だけが、心の中に残り続けたのよ。
皇子の幻影は男を捉らえ続け、男は生まれ変わるはずの皇子を探し続けた。ずーっと独りで、何十年、何百年もね。
そして現代の、とある裕福な戦争のない国。
男は遂に生まれ変わった皇子を見つけた。
皇子の周りには、同じように生まれ変わった皇子に仕えていた人間が集まっていた。けれど、皇子にも仕えていた人間にも、前世の記憶はなかったわ。
それでも、それから男は再び生まれ変わった皇子の傍にいることにしたの。