short story
□きらきら
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私立アッシュフォード学園。
広大な敷地の隅に建てられたこじんまりとしたホールから、風に乗って微かに聞こえるピアノの音。
今は観客の居ないホールに、滑らかな旋律が響く。
舞台に置かれたグランドピアノに腰掛ける少年が一人、天窓から差し込む陽光を受けてどこか物哀しい音色を紡いでいた。
鍵盤を叩く細い指が、ぴたりと止まる。
同時に少年が顔を上げ、手触りの良さそうな黒髪がさらりと揺れた。
そうして、入り口に立つ人物を見とめると、彼はそちらに向けて困ったように笑う。
細められた紫が、夕刻特有のオレンジの光を受け不思議な色を湛えていた。
「驚いた…、チェス以外にこんな特技があったんだな。ルルーシュ」
開け放った戸口に寄り掛かる人物が、少年に向けて感嘆と共に拍手を贈る。
ルルーシュと呼ばれた少年は、それに苦笑して鍵盤に蓋を落とした。
「昔、齧った事があるだけさ」
そう言ってルルーシュは、ゆっくりとした足取りでドアの横で待つ彼の方へやって来る。
「リヴァル、何か用だったか?」
「んー、用って言う程のモンじゃないんだけどさ…」
歯切れの悪い友人の言葉に、ルルーシュは首を傾げた。
何事もはきはきと自己主張をするリヴァルには珍しいと思いながら、いまいち煮え切らない態度の彼に、ルルーシュが顎でしゃくって先を促す。
「何て言うか…、ほんとに大したことじゃないって言うか…でも気になってるって言うか…」
「はっきりしろよ、らしくない」
「…悪い、やっぱいいわ!」
そう口で言いながらも、リヴァルの表情は晴れていないわけで、ルルーシュは怪訝そうに眉根を寄せる。
そんな彼の様子を、リヴァルは気にしないように自分よりも高い位置にあるルルーシュの肩を押してホールを出た。
だいぶ陽の傾いた外は、時折ひやりとする空気が通り抜ける。
リヴァルは適当なベンチに腰掛け、ちらりと隣を窺った。
寮に帰るわけでもないリヴァルの横で、こちらも何故か帰ろうとしないルルーシュが同じくベンチに腰を下ろしている。
「あのさ、ルルーシュ」
「何だ?」
「そろそろ戻った方がいいんじゃない?」
「何故?」
「何故ってそりゃあ、ルルーシュにはナナリーだって待ってるわけだし」
片膝を抱えて、リヴァルが横目にルルーシュを見やって言った。
ルルーシュの方はと言えば、そんなリヴァルをふんと鼻を一つ鳴らして一蹴する。
「生憎と、ワケありらしい友人を放っておける程、冷たい人間でもないんだよ、俺は」
「はは…何だそれ」
笑って、立てた膝に顔を埋めるリヴァルに、ルルーシュはそっと手を伸ばす。
そして、外に跳ねた硬質な髪をぐしゃぐしゃと乱暴に掻き回した。
「おいルルーシュ!!」
普段の彼らしからぬ行動を取るルルーシュに、リヴァルが声を上げるも、ルルーシュは全く取り合わずにただ笑っていたのだった。