short story
□君の事
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「今日はこれで解散!!」
竹藪での騒動からクラブハウスへと逃げ戻った後、ミレイ会長の一声で生徒会メンバーは銘々、寮や自宅へと帰って行った。
ただ一人を除いては。
君の事はよく知っているんだ
「あの、ルルーシュ?」
皆と同じように帰ろうとしたスザクだったのだが、踏み出した瞬間後ろに引かれる感覚に振り向いてみれば、ルルーシュがスザクを引き止めていた。
彼らしからぬその行動に首を傾げ、スザクはルルーシュの様子を窺う。
俯いてしまっている為、表情は分からないが、その細い手はしっかりとスザクの制服を掴んでいた。
どうしたのかと問うてみても、彼は制服の裾を掴んだまま黙している。
助けを求めようにも皆すでに帰ってしまっており、ルルーシュの弟であるロロはさっさとクラブハウスの中へ入ってしまっているらしかった。
「ルルーシュ、どうしたの?」
俯いているルルーシュの黒髪に指を通し、スザクは彼の滑らかな頬にそっと掌を当てる。
すると、珍しい事にルルーシュがその手に顔を擦り寄せたのだった。
本当に彼はどうしてしまったのかと、スザクは先程までのルルーシュを思い返す。
が、特に変わった様子もなく、いつも通りロロを気遣い、ジノには容赦なく突っ込みを入れていたようであったし、どれも今のこの彼の行動には結び付かない。
しかし今の彼は、明らかにスザクに甘えている。
もしかして…と、スザクはふと思い浮かんだ言葉をルルーシュに掛けてみた。
「ねぇ、もしかして怖いの?」
見た目には平静そのものの彼であるが、実際の所かなり怖かったのではないかというのが、スザクが至った結論である。
事実、スザク自身ある筈のない声を自覚した時には、ひやりとしたものが背筋を伝ったのだから。
「そんなわけあるか!」
漸く上げられた顔はしかし、すぐに逸らされた。
うっすらと赤く染まっている目元に、図星だったのかと思わず吹き出しそうになるのをスザクは必死で堪える。
可愛いと思いこそすれ、口には出さない。
だったらその手はなんなのか、とも口にしない。
ルルーシュの扱いに関しては、それなりに心得ているのだ。
「あのさ、僕明日空いてるんだ」
「だから?」
素っ気ない受け答えも、照れ隠しなのだと思えばスザクの頬も緩む。
「だからね、今日はこのまま泊まっていってもいいかな?」
ぴくりと、ルルーシュの眉が跳ねる。
スザクは頬に触れたままになっていた手を一旦離し、今度は横を向いているルルーシュの顔をこちらに向くようにその手を添えた。
「…泊めてやらないこともない」
尊大に言うルルーシュに、スザクはにこりと笑ってゆっくり彼の額に自身の唇を寄せる。
軽く音を立てて離れていくそれをぽかんと見やるルルーシュが可笑しくて、スザクは彼の鼻先を小突いた。
「ありがとう」
「ほら、早く入れ」
相変わらず口調はぶっきらぼうそのものだが、しっかりとスザクの手を繋いでルルーシュは中へと促す。
その頬には朱が差しており、スザクの方を見ようともしない。
「お邪魔します」
スザクがそう言うと、ルルーシュは安堵の息を吐いた。
本当に、可愛いったらない。
線の細い背中を見つめながら、スザクは柔らかく微笑んだのだった。
END.
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