short story


□Snow Flower
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吐く息が白く変わり、陽射しが低くなって久しい頃。
ついこの間まで彩っていた紅葉が散り始め、周囲の様相は冬へと移り変わっていく。






Snow Flower






ルルーシュは先日編み上げたばかりのマフラーを巻いて、一人公園のベンチに腰掛けていた。
緩やかに流れていく時間は、寝不足のルルーシュの意識をずるずると彼方へ掠おうとするも、頬を差す冷たい風が辛うじてそれを引き止めている。
すっかり冷めてしまった缶コーヒーを口に含み、ルルーシュは曇天を見上げた。
分厚い雲に覆われた重たい空が、まるで今の自分の心境のようで、ルルーシュの口元に自嘲めいた笑みが浮かぶ。

12月5日はルルーシュの誕生日である。
生徒会主催のパーティーは前日に行なわれ、誕生日当日の今日は、幼馴染みの彼と一緒に過ごす筈だった。
なのに、ルルーシュは今、一人公園のベンチの上。
こんなこと、昨日までの彼は全く想像していなかった。
昨夜は日付が変わると同時におめでとうを言われ、擽ったい気持ちのまま朝を迎えたのだ。
しかし、ルルーシュが目覚めた隣りには、いた筈の幼馴染みの姿はなく、代わりに置き手紙が残されていた。
急な呼び出しが入ったことと、ごめんと。
そして、夕方待ち合わせをしようという旨が記されていたのである。
癖の強い独特な筆跡で書かれたそれは確かに幼馴染みの字で、ルルーシュは迫り上がってくる思いを押し込めたのだった。
隣りに居なくて寂しいなど、さらりと口に出せる程の素直さを、生憎とルルーシュは持ち合わせていない。
本当は誰よりも傍にいて欲しいくせに、それを言い出せない自分自身には呆れるばかりだ。

今だって、特に時間を指定されていたわけでもないのに、学校が終わったその足で真っ直ぐにこの公園に来たのである。
態度にばかり出てしまっては、思いを口に出さないことなど意味はないというのに。
それでも待ち人が来たら、ずっと待っていたのだとは口が裂けても言わないのだろう。




悴む手を擦り合わせ、ルルーシュはそこに息を吹きかける。
雲の向こう側で太陽が傾きだしたのだろう、反対側の空の端から順に、灰色に群青が混ざりだしていた。
マフラーのお陰で首回りは暖かいが、その他の部分は寒さに音を上げている。
そういえば、スザクの書き置きに夜までに来られなかったら帰って構わないとも書かれていたことを思い出し、ルルーシュは徐々に暗くなっていく空の下で、携帯片手に溜め息をついた。
来られなくなったのだろうか、とは思いたくなくて、冷たくなった空き缶を弄ぶ。

往生際が悪いのは自覚済みだ。
けれども、待っていたかった。
スザクに会いたかった。





薄暗い公園は段々と人通りも疎らになり、一段と肌寒く感じる。
携帯のディスプレイが示す時刻も、夜と呼ぶに相応しいものだ。


もう諦めて帰った方がいいのかもしれない。
そう思い、帰ろうと腰を上げた時だ。



「ルルーシュ!」




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