long story


□リトル・ケージ 序章
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「エリア11には、…私が行きます」


そう告げた途端、一様に驚きの色を見せる兄妹達を見回し、神聖ブリタニア帝国第三皇子、クロヴィス・ラ・ブリタニアは掛けていた椅子から立ち上がる。


「まずは腕前をご覧あれ」


そう言ってクロヴィスは、そのまま部屋を出て行ってしまった。
残された面々は呆気にとられたように、退室するクロヴィスの背を見送ったのだった。

すっかり冷めてしまった紅茶の入ったカップに口をつけ、クロヴィスの異母姉であり、帝国第二皇女でもあるコーネリアが、先程の異母弟の言葉を思い出し溜め息をつく。


「エリア11は、未だ抵抗運動が絶えないと聞きます。クロヴィスにそのようなエリアの総督が務まるでしょうか?」


そう問うた彼女の視線の先には、優雅に頬杖をついた異母兄、帝国第二皇子、シュナイゼルの姿があった。
彼は口許に手を当て考える仕草をして見せ、少し間を置いてから口を開く。


「クロヴィスには、向いていないだろうね」

「やはり…」

「しかし、帝国の皇子であるからには、避けて通れない道でもある」

「だからと言って、何もエリア11でなくともよろしいではありませんか」


ブリタニアの戦女神と謳われるコーネリアだが、軍務に冷酷な反面、身内に対する情には人一倍篤い所がある。
話題の中心となっているクロヴィスは、お世辞にも統治者向きではない。
故に彼女は、彼のエリア11行きに難色を示している。
それなりに安定したエリアならばいざ知らず、これから彼が向かうのは、数あるブリタニアの属領の中でも、特に抵抗運動が激しいエリアであった。

旧日本。
世界有数のサクラダイト産出国であり、経済大国でもあった彼の地は、占領作戦より四年が経った今でも戦火が絶えないのである。
事実上日本のトップに立っていた枢木ゲンブの自害によって急速に終戦へと向かった戦争は、ブリタニアと日本、双方にとって果たしてよかったのか、コーネリアにも思う所があった。

徹底的に叩いて、抵抗する意思を完全に殺ぎ落とす。
それが彼女の信条であり方法だ。
そうすれば、安定したエリアにおいて平穏な生活が約束されるのだから。


「しかし意外だね。まさかクロヴィスが自らエリア11総督を買って出るとは…」

「はい、私もそう思います。いくらルルーシュやナナリーの為とは言え、無茶がすぎます」


空になったカップに視線を移し、コーネリアが呟くように言う。
そこへ、彼女の実妹である第三皇女、ユーフェミアがぽつりと口を挟んだ。


「ルルーシュ達は…」

「ユフィ?」

「いいえ、何でもありません」


一瞬、何か言いたげな顔をして見せた妹を見やり、コーネリアは続きを促そうとするも、先にユーフェミアの方が被りを振って何でもないのだと言った。

ルルーシュ―。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
今まさにクロヴィスが赴かんとするエリアで、その命を落としたとされる彼らの兄弟であり、クロヴィスが、自分をエリア11の総督にと、父であるブリタニア皇帝に奏上した理由でもあった。



コーネリアは再び溜め息をついて、カップの縁を指で拭う。
憂いを帯びた薄紫が、幼くして散ってしまった兄妹を想い、揺らめいた。

 

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