短編・SS集

□笑顔の場所
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私のお気に入りの場所。
私しか知らない、秘密の場所。




‐笑顔の場所‐





「バッカヤロー!」
 ひっそりとした川辺で、私は思い切り叫んだ。
 なんなのよこの成績。もうちょっとくらい情けや優しさがあってもいいんじゃないの?
 すとん、と土手に座って溜息をついた。制服が汚れるとか、気にしない。寧ろ、今の私には制服がどうなろうと関係ない。
 最近見つけたこの場所は、人通りが少なく、っていうよりもほとんどない。だから、何でもやりたい放題。
 私はよくこの場所に来る。嫌なことがあったときとか、勿論、そんなときだけじゃないけれど。暇があれば来るってかんじ。
 回りに人がいないのをいいことに、私は好き勝手に悪態をつきまくる。
「あのクソオヤジめ」
「女の子はもう少し柔らかい口調の方がいいんじゃないですか」
 ‥一瞬、心臓が止まった気がした。
 体が一気に固まって振り返られない。
 どうしよ‥全部聞かれてたら恥ずかしくて死にそう。
「あんまり気にしない方がいいですよ、そういうの」
 声の主がだんだん近付いて来るのが分かった。声から察するに、若い男の人っぽい。
「‥どこから聞いてたんですか」
「バカヤローあたりかな」
 もうほんとに最低。穴があったら入りたいって今の私にぴったりすぎる。
 足音が止まったから、傍まで来たことが分かった。
「最近、よくここに来るんですか」
 何だコイツと思いながらも、私は「まぁ、たまに‥」と曖昧に返事をする。勿論、振り返ったりしない。ゆらゆらと流れる川を見たまま。
「ここ、オレのお気に入りの場所だったんです」
 初めて振り返った。瞳に映ったのは、赤毛の学生。しかも超進学校の盟王生。
 うわ、すっごい美形じゃん。
「最近、全然来れなかったんです」
 彼は川を見ていた。少し哀しそうな顔で。
「いろいろあって、いろんなことを思い出して」
 彼は、こちらを向いてニコリと笑った。
「来てみたら、貴女がいたんです」
 ちょっとした罪悪感が芽生えた。
「あの、ごめんなさい」
「え?」
「この場所‥」
「これからは二人の秘密の場所になっただけですよ」
 笑顔が、眩しいと思った。




私のお気に入りの場所。
私と彼しか知らない、秘密の場所。







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'08.7.23  
風蝶院泪菜 



 

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