荒い息遣い、痛む脚。くそっ、と毒を吐く。
「何でこんな事になってるんでィ」
とりあえず脚の治療をしようと、落ちていた枝を挿し木にし、ぐるぐると紐で巻き付ける。気付いたら雨が降っていて、服がぐっしょりと湿っている事に気付く。何処か、民家に押し入って服を強奪しようかと考えたが、自分が警察だと言うことを思い出し断念。こんな非常時に上司は何をやって居るのだろうか、きっとあのホストと一発ヤって居るのだろう。不意に、ばしゃばしゃと水溜まりに踏み込む音がした。追っ手だろうか?先日の取締時に逃げ出した麻薬密売人の顔を思い出す。
「……チッ」
銃を構える。が、角を曲がり走り出てきたのは赤いチャイナ服の女だった。いきなり弾丸が目の前を通過する。薄紫の傘が舞う。
「……ッ」
女も振り返り、撃ち返す。悲鳴が聞こえ、足音が消えた。血が飛び散る。女は立ち尽くしている。
「オイ」
声をかけると、バッと振り向く女。
「…だ れ…?」
銃口を向けられ、仕方無く手を挙げた。
「誰って言う程のでもねェが、少なくともマフィアやホストとは違うな」
「…警察?」
勘の良いお嬢さんだ。等と気取った台詞を口にしてみる。明らかに女はあっち関係の令嬢とかそんなんだろう。
「で、テメーはどうなんでィ」
「……話す必要無いわ」
言い損かよ、と呟く。急に女が崩れ落ちた。よく見れば、チャイナ服はあちこち黒ずんだ緋で染まっている。流れ弾でも受けたのだろう。
「オイ、大丈…」
「此方だ、銃を持ってこい!!」
舌打ちをしながら立ち去ろうとすると、女が怨みがましく睨んでくる。仕方無く肩を貸してやり、逃亡。何とか人混みに紛れ、撒くことができた。
「…っ、テメーのせいだぞチャイナ」
「……?」
足元からはだらだら出血。脳を揺らす痛みが体を突き抜ける。
(…気ィ失いそうだ)
懐中を探ると、今朝ヤク中から没収した薬が出てきた。常用となるとまずいが、今だけなら平気だろうと呑み込む。痛みを消すためとは言っても、通常効果も有るだろうから気が抜けない。
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